クリスマス・バトルロイヤル!(4)
「……ていう感じ」
マユさんの話を一通り聞いて、なるほど……と相槌をうつ。
「ちゃんと相手に合わせて、飲み物変えてますね〜」
「観察されてたとか考えると、怖くない?」
「ん〜」
顎に指をトントンと当てながら、一度脳内をフラットにして考えてみる。
「ちゃんと好きになって、本当に気になっていたからこそ、好みの飲み物とかに気づいていた、とかはないですか?」
「前向きだねぇ、ユリは」
少し呆れられた。
でも、それだけだと遊び人とは断定できないと思うのだ。
「とりあえずカフェに誘って、彼氏がいるのか探りを入れてるのも、ある意味健全な手順のような?」
「まぁ遊び人なら、彼氏がいようがいまいが関係ないだろうけど……」
マユさんも、考え込み始める。
「誘い方が同じパターンなのは、誘う側としてはありがちですし」
「むぅ……」
お〜考えてる、考えてる。
まぁ私も、結局のところどうなのか分からないんだけど。
「私のマユさんに手を出そうとしたところは、評価に値しますね。いいセンスです」
「ユリに手を出そうとしたところもね」
頭をポンポンとされた。
もっとして欲しい。
「じゃあ今回も、たまたま同じ職場の人が、気になったってこと?」
「じゃないですかね。矢代さんって忙しいみたいですし、出会いのある場所が職場にしかないとか」
「今時出会いなんて、SNSでいくらでもあるのに?」
「ん〜、現物見て判断する派とか」
「現物て……」
マユさんが缶ビールを一気に飲み干すと、何か思いついたのか、スマホを弄りだした。
「こういう時は、情報屋に聞いてみるか」
「情報屋?」
「手懐けとくと便利よー。こっちの情報も守れるし」
話しながらも、すぐにマユさんのスマホから通知音が聞こえた。
「うわっ、さすが早っ!」
「いったい、誰なんですか〜?」
「見る?」
マユさんがコツンと頭をぶつけてきたので、こちらもコツンとぶつけて、二人でスマホを覗き込む。
そこには独特の文章で、返事が書かれていた。
チャコ『オー! パイセン、その人は危険デスよー』
「チャコ?」
「葵 千弥。アカウント名はチャコ。社内いちの情報通よ」
「千弥さんっ!?」
そういえば夏祭りの時に、マユさんと二人でいるところを、千弥さんに目撃されたんだっけ。
その情報が社内に漏れていないのは、マユさんがしっかり口止めをしていたってわけだ。
チャコ『遅く帰る娘を狙って、駅前の喫茶に誘う常習犯デース!』
「えぇー!」
「ほらー、だから言ったじゃん」
言わんこっちゃない的な顔をするマユさん。
いやいや、でもまだ真面目に好きになった説は消えてないはず……
チャコ『ちな、私は今年の夏に誘われましたデース!』
うわぁ……出るわ出るわ、新情報。
ちょっとだけフォローを入れた、私が馬鹿みたいだ。
チャコ『あと、社外に彼女イマース!』
「えぇぇぇぇっ!」
「はい、ゲス認定! アイツ、超クズじゃん!」
激アツモードに空の缶ビールを握りつぶして、ガッツポーズを取るマユさん。
はい、私の負けです。
チャコ『しかも、二人イマース! 某、何度か目撃してマース!』
「はぁぁぁぁっ?」
最後は、二人同時に声を上げてしまった。
それにしても千弥さん、こわー。
たまにいる、天性の“ゴシップに遭遇できるタイプ”の人だ。
「やばー、矢代さん、やばー」
「想像の百倍クズだったわ。それにしても……」
マユさんが、前髪をかきあげながら続ける。
「よく社内の人に、手を出せるなー。どういう神経してんだ」
「私、手を出されましたけど?」
「私たちのは、真剣でしょ?」
「イエス、マム。私、返事しちゃいますね」
これはもう、関わる必要なんてゼロだ。
きっぱりと断ろう。
「待って。連絡先、交換してたの?」
「はい。断るにもDMのが楽ですし……あ、通知来てた」
「……なんて?」
うぅ、こうなるとあまり見たくないけど……
一人で見たくないので、マユさんにひっついて、二人で見てみる。
ヤッシー『二十三日、どうかな。行けそうなら、もうお店予約しないとだからさ』
マユさんと、顔を見合わせる。
そして、同時に「うげぇ」と舌を出してしまった。
「二十三日って……クリスマスでもイブでもないじゃん。私のユリを、遊び相手にしようとしてるじゃん」
「本命からほど遠くて、悲しいです」
少しふざけて、答えてみる。
マユさんはというと、ちょっとだけムッとしているようだ。
みるみると目を細めていく。
そして……
「よし……そのお誘い、受けよう」
「え?」
「オッケーするの」
「えぇぇぇぇっ?」
怒ったマユさんは、とんでもないことを言い出したのだ。




