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【完結済】あなたが、ユリを望むなら。  作者: Ni:
あなたが、ユリを望むなら。2【アフターストーリー】
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クリスマス・バトルロイヤル!(3)

──最上真由美の記憶をたどる、ちょうど一年前の話。


「あれ、最上君もあがり?」

「あ、矢代さんもですか?」

「お互い、クライアントが我儘で大変だね。俺は終わらなかったから、明日も早出だよ」

「うわぁそれは……お疲れ様です」

「ははは。とりあえず、急いで出よう」


 私は頷くと、早足で退勤処理を行う。

 遅れて矢代さんもやってきた。

 矢代さんは、ひとつ年上の先輩だ。

 後輩の面倒見が良く、上司からの信頼も厚い。

 仕事の出来はよく知らないが、社内営業が得意な印象をもっている。

 そこについては、社内で素っ気ない態度を取りがちな私と、大きく違うところだ。


「じゃあ、お疲れ様でした」

「あ、待って。よかったら駅前で、珈琲一杯だけ飲んで行かない?」


 駅前……あぁ〜、あの店か。

 どうせなら飲むなら、ウチの近くのADZで飲みたいけど移動するわけにもいかないし……これも付き合いか。

 それに、この時間までやっているのは駅前のカフェくらいだ。


「はい、私も飲みたかったのでいいですよ」

「よかった。じゃあ、寄っていこう」


 おっ……爽やかな笑顔。

 いかにも女子ウケしそうな、自然で優しい笑顔だな。

 まぁ、感じが悪いよりは良いんだけど。


 カフェに着くまでは、当たり障りのない仕事の話。

 とりあえずの共通の話題として、そうしているのだろう。

 こんなふうに考えてしまう自分も、かなり捻じ曲がってるなぁ……と軽い自己嫌悪に入ってしまいそうだ。


「あ、ブラックでいいんだっけ? ミルクはいる?」

「いえ……ブラックで大丈夫です」

「はい。いいよ、席に行ってて」


 おっ……奢られる流れか。

 スマートだな。

 ここは下手にゴネないで、相手を立てた方がいい。

 逆に恥をかかせてしまうことになる。


 それにしても……ブラック好きなの、よく知ってるなぁ。

 会社で見られてたか?


「すみません、ご馳走になります。奥の角席でいいですか?」

「うん、いいよ」


 なんとなく、知ってる人に見つかりたくなかったので、奥の席にしてみたけど……これはこれで、コソコソしてる感じが出すぎだな。

 むしろ、通り沿いの方が良かったかもしれない。


「はい、ブラック」

「あ、どうも……ありがとうございます。矢代さんも、ブラックですか?」

「そうだよ。仕事終わりは、濃いのが欲しくてね。モカのブラックにした」

「大人ですね。私、酸味の強いのは、ちょっと苦手で」

「そこ、けっこう好み分かれるよね」


 本当に、自然な笑顔。

 素敵な笑顔ではある。

 でも、なんかなー。

 私の性格が捻じ曲がっているせいか、胡散臭く見えるんだよなー。


「最上さんって、外出よくするタイプ?」

「あー……今はどちらかというと、部屋にこもるタイプです」

「やっぱりそうなんだ。肌白いもんねー」

「確かに、焼ける要素のない生活してますね」


 くすくす笑うと、矢代さんがうんうんと頷く。


「でも全然、太らないよね。もしかして、ジムとか行ってるの?」

「あぁ〜、行ってます」

「定期的に?」


 はいと答えると、やはり矢代さんは頷いて続ける。


「前から思ってたんだけど、最上さんってストイックだよね」

「何も考えずに体動かすのは、嫌いじゃないので。それにジムだと、自分の都合で行けますし」

「たしかに。ジムは一人の方が、黙々とできるしね」

「そうですね。まぁ、うちに帰っても一人なんですけどね」


 思わず、笑いながら答えてしまう。


「あれ、彼氏さんとかいないの?」


 しまった、失言だった。

 いや、でも彼氏はいるけども。

 私に一切手を出してこない、変な彼氏だけども。


「じゃあさ。今度のクリスマスとか、映画とか付き合ってくれない?」

「なんでクリスマスに、わざわざ映画なんですか」


 特別な日にそのチョイスって……と、思わず笑ってしまう。


「いや、見たい映画があってさ。でも恋愛ものだから、男一人で行くのもなんだなって」

「それはそうですけど……でも私、彼氏いるんで……すみません」

「えっ、そうなの? そっか……いや、ごめんごめん。じゃあ今の忘れて」

「いいですけど……あまり社内の……しかも同じフロアの娘を誘わない方がいいですよ。噂になったら、色々と面倒になりますし」

「あはは。いや、ちゃんと真面目に好き……になりそうな人というか、好ましく思ってる人にしか言わないよ?」


 それは私に気があるってことを、さりげなくアピールしてないか?

 こいつ、絶対遊び人だ。

 言葉の選び方が、手慣れすぎている。

 この手でいったい何人に声をかけたのか、問い詰めてみたい。


「とにかく、社内はおすすめしないですよー。この事は、忘れますけど」

「なんか、恥ずかしいな。そうしてくれると、ありがたいよ」


 はにかんで笑うその表情すら可愛くも見え、私はいっそうに警戒心を高めてしまったのだ。

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