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【完結済】あなたが、ユリを望むなら。  作者: Ni:
あなたが、ユリを望むなら。2【アフターストーリー】
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リベンジ!(4)

「ゔぁぁぁぁ、この理不尽クソビッチ!」

「言葉が汚いですよ、マユさん」

 

 ……と言いつつ、頭を抱えるマユさんにスマホを向けて、写真を撮りまくる。

 目の前にいるのは、純白のヒラヒラレースに花の刺繍が施された、可愛い系の着物に身を包んだマユさんだ。

 真っ白なヒラヒラがついた編み上げショートブーツという、完璧な白ゴス仕様である。

 顔を真っ赤にしているところを含めて眼福、控えめに言ってサイ&コーってやつ。


 ちなみにマユさんが選んでくれた私の着物は、前回マユさんが着ていた『黒レースの着物に黒ブーツ』のロックな着物だ。

 あらためて、やっぱりカッコいい系は似合わなすぎて、鏡の中の私を直視できない。

 恥ずかしくはないんだけど。


「壊滅的に似合わないぃぃ! 可愛い系、無理なのよー!」

「私だって、カッコいい系、似合わないんですけど?」

「はぁ?」


 急にマユさんが真顔になって、スマホを向けてくる。

 そして、おもむろに写真を撮り始めた。


「なんちゃってロック系のアイドルみたいで、エロ可愛いけど?」

「マユさんじゃあるまいし、私がこれを着て、どこにエロ要素が生まれるんですか。そんなふうに見れてるの、マユさんだけですよ」

「なぁに? 惚れてる補正って言いたいの? 言っとくけど、そんなことないからね? 誰が見たって、小悪魔に見えるからね?」

「なんでマユさんが、ムキになるんですか。そんなことより、ほら行きますよー」


 そう言って私はマユさんの手を取り、先斗町(ぽんとちょう)の通り南へと進む。

 少し懐かしくも感じる細い路地を曲がると、その奥にバー『凛ノ音(りんのね)』が現れた。


「うぅ〜色んな意味でトラウマだわ」

「そのリベンジでしょ〜。ただ飲むだけなんですし、大丈夫ですって」

「この、ポジティブ・モンスターめ」

「私は平気ですから〜」


 手をヒラヒラとさせて笑うと、マユさんがジト目を向けてくる。


「ユリ、店の中で泣いてたくせに」

「あぁ〜、そうでした。マユさんも泣いてませんでした?」

「店の中では泣いてないし。というか、店の外でも泣いてないし。うずくまってただけだし」

「往生際わるー。私のは、マユさんのために泣いたんだもん」


 あの時は、なぜ涙が溢れてきたのかよく分からなかった。

 いま思えば、仕事の事とか、マユさんの事とかを馬鹿にされたみたいに感じて、悔しかったんだと思う。

 と、不意にマユさんが抱きしめてきた。


「ん……ありがと。嬉しかったよ」

「着物、汚れますよー」

「うぁ、そうだった」


 慌てて離れるマユさんが可笑しくて、愛おしい。


「あれ、お二人さん。随分早いね。まだオープン時間まで、三十分もあるよ?」


 声をかけてきたのは髪をオールバックにし、クラシックなグレーのスリーピーススーツを着こなした、バー『凛ノ音(りんのね)』のマスター、 佐原士郎(さはらしろう)さんだ。


「す、すみません、佐原さん。店の前で騒いでしまって」

「いいよ、いいよ。いま開けるから、入っちゃってよ」

「え、それは悪いですよ。待ちますから」

「たいして準備なんかないんだから、構わないよ」


 そう言って佐原さんは、店の扉を開け電気をつけ始める。

 ちなみに扉にかけられた木製のプレートは、準備中のままだ。

 つまり、三十分は貸切ということになる。


「こないだのこと話すのなら、むしろチャンスですよ、マユさん」


 マユさんは少し考える素振りを見せると、やがて小さく頷き、店の中へ入って行った。

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