リベンジ!(4)
「ゔぁぁぁぁ、この理不尽クソビッチ!」
「言葉が汚いですよ、マユさん」
……と言いつつ、頭を抱えるマユさんにスマホを向けて、写真を撮りまくる。
目の前にいるのは、純白のヒラヒラレースに花の刺繍が施された、可愛い系の着物に身を包んだマユさんだ。
真っ白なヒラヒラがついた編み上げショートブーツという、完璧な白ゴス仕様である。
顔を真っ赤にしているところを含めて眼福、控えめに言ってサイ&コーってやつ。
ちなみにマユさんが選んでくれた私の着物は、前回マユさんが着ていた『黒レースの着物に黒ブーツ』のロックな着物だ。
あらためて、やっぱりカッコいい系は似合わなすぎて、鏡の中の私を直視できない。
恥ずかしくはないんだけど。
「壊滅的に似合わないぃぃ! 可愛い系、無理なのよー!」
「私だって、カッコいい系、似合わないんですけど?」
「はぁ?」
急にマユさんが真顔になって、スマホを向けてくる。
そして、おもむろに写真を撮り始めた。
「なんちゃってロック系のアイドルみたいで、エロ可愛いけど?」
「マユさんじゃあるまいし、私がこれを着て、どこにエロ要素が生まれるんですか。そんなふうに見れてるの、マユさんだけですよ」
「なぁに? 惚れてる補正って言いたいの? 言っとくけど、そんなことないからね? 誰が見たって、小悪魔に見えるからね?」
「なんでマユさんが、ムキになるんですか。そんなことより、ほら行きますよー」
そう言って私はマユさんの手を取り、先斗町の通り南へと進む。
少し懐かしくも感じる細い路地を曲がると、その奥にバー『凛ノ音』が現れた。
「うぅ〜色んな意味でトラウマだわ」
「そのリベンジでしょ〜。ただ飲むだけなんですし、大丈夫ですって」
「この、ポジティブ・モンスターめ」
「私は平気ですから〜」
手をヒラヒラとさせて笑うと、マユさんがジト目を向けてくる。
「ユリ、店の中で泣いてたくせに」
「あぁ〜、そうでした。マユさんも泣いてませんでした?」
「店の中では泣いてないし。というか、店の外でも泣いてないし。うずくまってただけだし」
「往生際わるー。私のは、マユさんのために泣いたんだもん」
あの時は、なぜ涙が溢れてきたのかよく分からなかった。
いま思えば、仕事の事とか、マユさんの事とかを馬鹿にされたみたいに感じて、悔しかったんだと思う。
と、不意にマユさんが抱きしめてきた。
「ん……ありがと。嬉しかったよ」
「着物、汚れますよー」
「うぁ、そうだった」
慌てて離れるマユさんが可笑しくて、愛おしい。
「あれ、お二人さん。随分早いね。まだオープン時間まで、三十分もあるよ?」
声をかけてきたのは髪をオールバックにし、クラシックなグレーのスリーピーススーツを着こなした、バー『凛ノ音』のマスター、 佐原士郎さんだ。
「す、すみません、佐原さん。店の前で騒いでしまって」
「いいよ、いいよ。いま開けるから、入っちゃってよ」
「え、それは悪いですよ。待ちますから」
「たいして準備なんかないんだから、構わないよ」
そう言って佐原さんは、店の扉を開け電気をつけ始める。
ちなみに扉にかけられた木製のプレートは、準備中のままだ。
つまり、三十分は貸切ということになる。
「こないだのこと話すのなら、むしろチャンスですよ、マユさん」
マユさんは少し考える素振りを見せると、やがて小さく頷き、店の中へ入って行った。




