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【完結済】あなたが、ユリを望むなら。  作者: Ni:
あなたが、ユリを望むなら。2【アフターストーリー】

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プレシャス!

 会社の一年先輩、葵 千弥さん。

 ナチュラルボブがよく似合う、元気印の可愛らしい女性だ。

 そしてお祭りで、私とマユさんが手を繋いでデートをしていたところを、目撃した人でもある。


「夕璃ちゃん。さっき言ってた資料のデータ、送っといたよ〜」

「あ、はい。千弥さん、ありがとうございます。午前中のうちに、形にします」

「急がないでいいよ〜。で、最近どうなのよ〜?」


 隣に椅子を持ってきて、身まで寄せてくる。

 近い。


「おかげさまで、少し慣れてきました!」

「違う違う、仕事じゃなくて〜」

「へ?」


 間抜けな返事をして首を傾げると、千弥さんがさらに顔を近づけてきた。

 近い、近い。


「先輩だよ、先輩。真由美先輩と!」

「あぁ〜」


 そのことについて何も言ってこないなぁと思っていたけど、ついに触れてきたか。

 マユさんは「バレてもいいよ」と言っていたけれど、どうしたもんだろう。


「ねぇねぇ、どうなの。同性って」

「いやぁ……そんなに変わらないですよ、男の人と付き合うのと」

「え〜じゃあ、家で映画とか見てたら、急に襲ってきたりするの?」

「それは……ないですけど」

「えぇ〜、じゃあじゃあ、夕璃ちゃんがネコなの?」

「なに、聞いてるんですか!」


 相変わらず凄いな、この人。

 興味津々すぎて、目がキラキラしてるよ。


「いずれは、同性で同棲か〜」

「なんですか、それ。オヤジですか」

「だって、興味あるじゃ〜ん」


 へぇ、興味あるんだ。

 きっと本気でそうなりたい、とかじゃないんだろうけど。


「今そういうの、流行りだし!」」

「流行り……」

「なんか、カッコいいじゃん!」

「カッコいい……」

「そういう関係に憧れる子、多いんだよ?」

「憧れ……」


 なんだろう。

 なんだか、しっくりこない。

 何かが引っ掛かるような。


「どうやったら、そういう相手を見つけられて、そういう関係になれるの?」

「いや、探してないですし。そもそも二人とも、そういうの無かったですし。そういう関係になろうとして、なってないというか。普通に……自然に、そういう流れになったというか……」

「いーなー。カッコいいなー」

「カッコいい……」


 あぁ、なんとなく分かった。

 言語化が難しいけど。


「えとですね、千弥さん」

「ん?」

「そういう……なんというか……ファッション的なやつじゃなくて、本当に恋人なんですよ」

「うん?」

「友達と恋人の間……みたいな関係でもなく、軽い気持ちでもなく……いや、まぁ最初は、どうなるのか分からないけど付き合ってみよう……みたいな手探りの感じでしたけど……」

「うん」

「なんというか……誰かに見せるためとかじゃなく……男女の関係と違って、明確なゴールみたいなものは見えないですけど……でも過程というか、重みというか、もっと普通の恋愛と同じで」


 千弥さんが目を閉じて、うーんと唸る。

 やがて自分の中で何かに納得したのか、指を一本立てて何度も頷き始めた。


「うんうん、ちゃんと恋人ってことだね?」

「そうです」

「男の人を好きになるのと、同じ気持ちってことだよね?」

「その通りです」


 それに関しては、互いに彼氏がいたんだから間違いない。

 大好きな友達みたいな、ありふれたカテゴリーじゃないのだ。

 マユさんが誰かと仲良くしていたらヤキモチも妬くし、私がフラれたら大泣きすると思う。


「へ〜、へ〜、すごいな〜」

「ほんとに、分かってます?」

「分かってる、分かってる! 本気なんだなって。そっか、羨ましいな〜」

「羨ましいですか」

「羨ましいよ。だって、それだけ本気になれる人と、相思相愛になれるなんて!」

「それは……そうですね」


 千弥さんは本当に……素直に、そう思って言っているのだろう。

 今も見せている屈託のない笑顔が、それを証明している。


「もう、変な質問されたから、喉が渇きましたよ」


 私はそう言ってマグカップを持つと、逃げるように給湯室にむかった。

 そして、びくんと体を大きく震わせる。

 なぜなら、目の前でマユさんが、シンクにもたれかかるようにして立っていたからだ。

 しかもマグカップに口をつけていて、口元の表情が読めない。

 スーツ姿のクールモードマユさんが半目を開き、ただ黙って見つめてくる。


「び、びっくりした〜。いたんですか?」


 マユさんは何も言わずに、ススッと横に移動してシンクを開けた。

 私はマグカップを軽く濯ぐと、マユさんに背を向けてコーヒーポットからコーヒーを注いだ。

 千弥さんとの会話、聞かれていたのかな。

 かなり小声のはずだけど……なぜだか、ドキドキとする。

 と、そこで……


「わっ」


 唐突にマユさんが、後ろから抱きしめてきた。


「な、なんですか? 誰か来ちゃいますよ」

「……(ごにょごにょ)」


 耳元で何か言ったみたいだけど、声が小さすぎて聞き取れない。


「なんですか?」


 もう一度聞いてみる。

 すると今度は、聞こえるように呟いてきた。


「尊いー」


 短く、それだけである。

 そして私を解放し、そのまま給湯室から出ていってしまった。

 その私にだけ見せてくれる甘えたマユさんが、私は堪らなく尊いのだ。

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