マザー・アタック!(5)
蒼井さんが帰って、ほんの数分後……
ピンポーン♪
もはや、チャイムの音がトラウマになりそうですよ、私は。
流石に今度こそ、マユさんだよね?
一応この扉の前にもカメラはついているけど、映像はマユさんのスマホでしか見れない。
こんなことなら私も、アプリをインストールしとくんだった。
ピンポーン♪ ピンポーン♪ ピンポーン♪
「だぁ、もう分かりましたから!」
仕方なく扉を開けると、外からマユさんが抱きついてきた。
「もぅ、開けるの遅い! すぐ開けてって言ったじゃん!」
私はマユさんの体を支えきれず、その場で尻餅をつくと、そのまま押し倒されてしまった。
「あのねーマユさん。すぐ開けたせいで、私がどんな目にあったと思ってるんですかぁー?」
今の私は、されるがままである。
ここまでくれば、半ばヤケクソな気持ちになっていた。
抱きしめるなり、キスするなり、好きにすればいいですよ。
「え、どゆこと?」
「さっきマユさんだと思って、裸で抱きついちゃいました」
「誰に……あぁ!」
ようやく、思い出したらしい。
「今日、あいつが来るんだった! えっ……じゃあ裸でって……あいつ、ぶっころす!」
「違う、そっちじゃないです。 いや、ブルームーンPも来ましたけども」
「えぇ、じゃあ誰に……」
そこで、廊下の奥から近づく足音が聞こえてきた。
もちろん私には足音の主が誰なのか、見なくても分かっていた。
「あらぁ、真由美ちゃん。お母さんの目の前で、随分とはしたない」
「えっ……」
ピキキッと、かたまるマユさん。
ちなみに私は半目で、半笑いである。
アハハー。
さぁどーする、マユさん。
「お母さん⁉︎」
「はーい、お母さんですよー」
満面の笑みを浮かべて、パタパタと手を振るお母様。
一方のマユさんは私を押し倒したまま、口をあんぐりと開けて驚いている。
「な、なんでいるの?」
「真由美ちゃんが電話に出ないから、寝てるのかな〜って思って、部屋まで来たんだけど〜」
お母様が、ちらりと私に視線を向ける。
「あなたが電話に出ないせいで、ユリさんに恥ずかしい思いさせちゃったわよ」
「だって仕事だったし……っていうか、えっと、えぇ?」
パニックですよねー。
ちなみに私は、もっとパニックでしたからねー。
なんせ裸で、マユさんのお母様に抱きついたんですから。
「えっと、あの、お母さん。私とユリは……」
「あぁ〜二人が付き合ってるのは、前彼さんから聞いたから〜」
「えぇ……ええっ?」
「今日は真由美ちゃんの顔を見に来ただけだから、お母さんもう帰るけど……今度あらためて色々と聞かせてね」
「いや、あの……」
「お父さんと会う前に話してくれたら、ちゃんと味方してあげるから。ユリさんも、またね。豆乳ラテ、おいしかったわ♪」
「あ、はい。お母様、お気をつけて」
「はぁい♪ じゃーねー♪」
そうしてお母様は、素敵な笑顔を残して出ていってしまった。
マユさんは頭の中が、グルグルしてるんだろう。
しばらく私に抱きついたまま、動かないでいた。
私は仕方なく、ため息をひとつする。
「とりあえず、ナシゴレン作ったんで食べませんか?」
「あぁ、うん。いや……なにがあったの?」
「それは食べながらで。ちゃんと最初から、きちんと説明します。で、その後は……」
「……後は?」
「その後は、お仕置きです」
私がニンマリと笑うと、マユさんは口の端をヒクヒクとさせながら、やがて諦めた表情を浮かべて頷くのだ。




