マザー・アタック!(1)
トゥルルルン♪……トゥルルルン♪
「うぅ〜〜?」
とある休日の朝、スマホの呼び出し音で無理やり起こされた私は、唸るような声をあげて寝返りをうつ。
そして手探りで眼鏡を探していると、触り慣れた柔らかいものをモニュりと掴んだ。
「なぁにぃ? アンタの眼鏡はテーブルでしょ〜」
マユさんの胸だった。
なぜか寝起きで眼鏡を探していると、よく掴んでしまう。
「じゃなくてですね……マユさんのスマホ、鳴ってましたよ〜」
「むぅあぁじぃでぇ?」
絶望感たっぷりの声をあげるマユさん。
「なんですか?」
「アレが鳴る時は、会社からの電話なのよ……」
「あぁ……それは、絶望ですね」
「最悪の朝よ」
マユさんは嫌そうに立ち上がると、洗面台へと向かう。
休日にお呼び出しとは……きっとクライアント様から特急案件で、なにか無理難題を言われたのだろう。
こういった時、最初に呼び出されるのは、マネジャーであるマユさんのポジションだ。
私のような新人は、わりと守られているというか、優先的に休ませてもらえるのである。
とはいえ今日は、気になっていたお店へランチに行く予定だったので、マユさんがいなくなると暇になる。
いったん帰るのも面倒だし……それなら……
「私も行きます?」
まぁ行ったら行ったで、部分的に何かしら手伝えるだろう。
マユさんは少し驚いた表情を見せると、両手で私の両頬を挟み、腰を左右に振り始めた。
「あぁ〜ん、なにそれ、ちょっと嬉しい♪」
「朝から、なに悶えてんですか」
「朝から人の胸揉んどいて、よくそんな返ししてくるわね」
ギュッと頬を強く挟んで、タコ唇にされる。
これは罰として、たまにやられるやつ。
いわゆる、イチャコラ中である。
ふへへ。
「でもいいよ、私ひとりで何とかなりそうだし。二、三時間で終わると思うから……お昼過ぎには帰って来れるかな」
「うぅ〜じゃあ、私はぁ?」
「いいよ、ここにいて。鍵は置いてくから、待っててね」
「お♪ なんか私、奥さんみたい?」
「言っとくけど、勝手にその辺荒らさないでよ?」
「はぁい、旦那さまぁ〜♪」
一瞬、半目を向けてくる。
めっちゃ、怪しんでいるみたい。
「私が出たら、ちゃんと鍵閉めてね。帰ったら、チャイム鳴らすから開けて」
「はぁい、いってらっしゃぁ〜い♪」
私は下着姿のままマユさんに抱きつくと、かるく頬に唇を押し当てた。
マユさんは少しはにかむんだ笑みを浮かべると、私の頭を二度撫でて「行ってきます」と耳元で囁いてきたのだ。




