ハッピーハロウィン・カムカム!(3)
私は迷うことなくマユさんが用意してくれたコスを取り出し、手際よく着替えてしまう。
そうして店内に戻ってみると、マユさんが既にカウンター席で、ニヤニヤとした表情を浮かべながら待っていった。
スラリと伸びた足を組み、リズミカルに揺らせながら、カクテルグラスを私に向けて、勝ち誇った笑顔を見せている。
まるで、恥ずかしいでしょ?とでも、言っているかのようだ。
「どう? 恥ずかしいでしょ?」
思った通りのことを言ってきて、可愛い。
でもね、マユさん。
マユさんには申し訳ないですけど、恥ずかしい……わけがないんですよ。
ふふふ。
そうですか〜♪
マユさんは、恥ずかしがる私をご所望でしたか〜♪
残念でした〜♪
では、お見せしましょう。
「お帰りなさいませ、お嬢様ぁ」
私はスカートの両端を指でつまみ上げ、軽く会釈をしながら完璧な営業スマイルで答えてみせる。
マユさんはというと、目を丸くして驚いているようだ。
面白そうなのでここは、もう少し追い込んでみよう。
「お嬢様のカクテルに“あいこめ”するので、一緒においしくなるおまじないをしましょう♪」
「へ? あい……なに?」
「せぇのぅ〜、萌え萌え〜?」
「ちょ、待って、何? 無理、無理だって!」
なぜか、顔を真っ赤にして焦るマユさん。
しょうがない、この辺で許してあげよう。
「ふっふっふ、どうですか? 私の接客」
「どうもなにも、順応しすぎでしょ?」
私は妖精さん……じゃなかった、店員さんにカクテルを頼み、マユさんの隣のカウンターチェアに座る。
「私、メイド喫茶でバイトしてたんで、こんなの恥ずかしくないですよ?」
そうなのだ。
マユさんが用意したコスは、典型的なメイド服だったのだ。
私にとってメイド服は、ただの制服なので恥ずかしいわけがない。
「うっわ、まぢかぁ」
……と言いつつ、おもむろにスマホを向けて写真を撮ってくるマユさん。
「なんですか?」
「くっそ可愛い。今度、うちでそれ着てくんない?」
「いいですけど……じゃあその時は、マユさんがライカさんになってくれるってことで」
「ぐ……それは……」
本気で悩むマユさん。
私としては、全てが有利条件だ。
これはもしかして、ライカさんと本気でイチャつくチャンス?
「うぅ〜〜むぅぅ〜〜〜〜」
マユさんは下を向いて頭を抱えながら悩み続け、やがてゆっくりと手を差し出してくる。
「交渉……成立ってことで……」
どうやらマユさんは、メイドの私が大変お好みのようだ。
そう思うと少し嬉しくもあり、どこか気恥ずかしくも感じてしまった。




