ハッピーハロウィン・カムカム!(1)
「こないだのハロウィンの新曲、めっちゃいいですね〜」
マユさんの部屋のローテーブルで、満面の笑みを浮かべながらウニクリームのパスタを頬張っているのは、私で間違いない。
今は日曜の昼下がり、外はしとしと雨が降っている。
雨だから外に出たくないという私の我儘に対し、マユさんがお手製のパスタをご馳走してくれているところだ。
ちなみにお泊まりしたので、上下ピンクのモコモコパジャマである。
マユさん曰く、究極のリラックススタイルらしい。
そんなマユさんは、白い無地のスウェットだ。
「アレ、いくらなんでも歌早すぎ。あいつ、人間の限界にチャレンジしてるんじゃないのって感じ」
マユさんが不満げに愚痴りながら、真っ赤なアラビアータのパスタを、フォークでクルクルと巻き続ける。
「私はボカロじゃないんだから、もうちょっと考えてほしい」
「って言いながら、歌えちゃうから凄いです。さっすが、ライカさん!」
「まぁ……私にだって、歌い手としてのプライドとかあるし、要求には答えるけどさ」
「あれもう、五十万回くらい再生数まわってましたよ〜。もうすっかり、有名人じゃないですか?」
「ぜんぜん〜私なんて歌い手としては、まだまだダヨ〜」
なぜか棒読みで返してくる、マユさん。
たぶん、照れ隠しだ。
ちなみに蒼井さんとは、どういう報酬分配してるんだろう。
「そういえば、ユリ。私まだアンタが持ってきた、あのちっこいスーツケースの中身、聞いてないだけど。なんなの、アレ」
マユさんが、部屋の奥に置かれた私のスーツケースに向け、顎をクイっとさせて指し示す。
そうそう、あれの説明が本題だった。
昨日は飲んで寝ちゃったから、説明できていないんだった。
「聞きたいです〜?」
「あ〜めっちゃ聞きたくない。悪い予感しかしないし」
「ひどっ!」
私はブーブーと不満の声を上げながら、スーツケースのところまで四つん這いで進む。
そしてスーツケースを横に倒すと、マユさんに向けてパカっと開けてみせた。
「ん〜、なにそれ?」
マユさんが、背筋を伸ばして覗き込んでくる。
「なんかの服?」
「そうです。プレゼントです」
私が胸をそらして「どうぞ」と手を広げると、マユさんは律儀に「ありがとう」と言いながら、中身を取り出した。
そして、無言のまま服を広げる。
服といっても、布面積は少なめ、エナメルのような生地は多め、ビビットのきいたカラフルな……
「なにこれ、コスプレ服かなんか?」
「そうです。ライカさんのコス、つくってもらいました!」
口を大きく開けて、言葉を失うマユさん。
私は構わず、笑顔で説明を続ける。
「来週、ハロウィンじゃないですか。で、コスプレパーティーとかしたいじゃないですか」
「はぁ?」
「で、そういうのやってる居酒屋とかないかなーって探したら、あったんで、そしたら予約するじゃないですか」
「はぁ?」
「で、もちろん私もコスするんで、マユさんはソレ着ればいいじゃないですか?」
「はぁぁぁぁ?」
めちゃくちゃ嫌っがってる。
「さっきから、あんた何言ってんのよ!」
「いいじゃないですか。コスって言っても、ライカさんの普段着なんだし、それってマユさんにとっても普段着ってことじゃないですか?」
「なに、その謎理論!」
「あっ、ウィッグも買ってあるんで、大丈夫です」
「だいじょばないし!」
「だってぇ〜リアルライカさん、見たいんですもん」
「あ、あんたねぇ……」
呆れてものも言えないといった顔だ。
でもこれは、押し切れる。
ふふふ……これで私の野望の一つ、リアルライカさんとデートできるぞ。
まさに2・5次元、しかも中身が本物ときてる。
最高すぎない?
「ほんと、ろくなこと考えないんだから」
「私も着ますからぁ〜」
「じゃあ〜あんたが着る服は、私が決める」
「あぁ〜まぁ、はい。それくらいは、いいですよ。対価としては、やむなしです」
「ぜんぜん釣り合ってない気がする……」
早くも落ち込むマユさんを見て、私は今からニヤニヤとしてしまうのだ。




