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アヒージョ・オイオイ!

 私は今、マユさんの部屋にいる。

 実に今朝ぶりだ。

 シャワーも借りて、ウニシロで買ってきたダボついたピンクのスウェットを着て、リビングにあるライトグレーのカウチソファに座っている。

 右手にはビールを持ち、壁に掛けられた楽器を眺めつつ、料理をするマユさんの後ろ姿をチラ見している。

 マユさんは、キャミソール+ショートパンツという露出っぷりだ。

 常に右の肩紐がずり落ちているけど、あんまり気にしない性分らしい。


 これって……私、今日も泊まるかのような行動ですよね……


 その考えに至るたびにブンブンと頭を振り、否定する。

 でも私は、すぐ横にあるベッドでマユさんと裸で寝ていたのだ。

 それは紛れもない事実であり……その証拠に、ベッドを見るだけで今朝の光景が鮮明に蘇ってしまう。

 まぁ相手が男ならともかく、女の人なら事故でも何でもない、と言えなくもない。

 見知らぬ誰かとワンナイしました……と、カウントする必要もないはずだ。

 女性なら、いいはずだ。

 うん。


「あんま部屋の中、見んなよー」


 キッチンに立つマユさんが背中を向けたまま、キョロキョロとする私に対し突っ込みを入れてきた。

 部屋に上げておいて見るなとは、どういうことですかと返したくなる。


「なんか楽器とか、パソコンとか、マイクとか、色々と趣味がありそうで……」

「だから、見るなって言ってんの」


 それ、無理じゃないですか?

 見るでしょ、ふつーに。

 とはいえ会社では先輩で、上司で、この先うまくやっていかなくちゃ駄目だし……というか、初対面みたいなもんだし、どう接していいのか未だに距離感が掴めない。

 マユさんは会社だと、くっきり他人のように分けてきてたけど、会社から出ると、もの凄く距離が近い気がする。

 本当に私はマユさんと昨夜だけで、どれだけ距離を縮めたんだろうと思う。


「手抜きのおつまみ飯だけど、どうぞ」


 そう言ってリビングテーブルに置かれた料理は、牡蠣とプチトマトとアスパラが入ったアヒージョだった。


「て、手抜きですか、これ」

「アヒージョなんて、オリーブオイルにニンニクと塩をぶっ込んで、具材と煮込むだけでしょ。チョー簡単」


 そういうことを言ってるのではなくて、ひとり暮らしで、さらっとこれを作る発想について突っ込んでいるんだけど。

 オシャレですか、マユさんは。

 いや、オシャレですけど、マユさんは。

 きれいだし、色っぽいし、家の中でだけ隙だらけだし。

 モテるんだろーなー。

 というか、女の人としか、ソユコトしない人なのかな?


「あの、マユさんって……」

「うん?」


 マユさんが缶ビールを開けて、口につける。


「彼氏とか、いるんですか?」


 そして、そのまま目を丸くして固まってしまう。

 もしかして、失礼なこと聞いちゃった?

 私たち、まだそこまでの関係じゃ……ていうか、どこまでの関係なの、そもそも。


「あー、いるよー。いちおーだけど。ほんと、いちおー」

「なんですか、その……いちおーって」

「んー、まぁ、その辺は、おいおいってやつで」

「そこ、大事だと思うんですけど」

「なんで?」


 なんで、と聞かれると答えにくい。

 まるで私が「責任取ってください」と、言っているみたいだ。


「なーにー、気になるのー? おいおい〜」

「気にはならないです!」

「あー、昨日のことが気になるのね」


 それは……と口ごもる。


「気にならないわけ、ないじゃないですか」

「だよねー。記憶にないんだもんねー」

「……教えてくれますか?」

「ヤダ」


 被り気味に、即答でコレだ。

 そして、またしてもマユさんは、悪戯な笑みを返すだけなのだ。

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