サマー・フェスティバル!(4)
長い階段を登り切ると、小さいながらも立派な神社が姿を現す。
鳥居をくぐり境内に足を踏み入れると、等間隔に設置された雪道が柔らかな灯をともしており、一応のお祭り感を醸し出していた。
見た感じ花火客は少なく、数人の地元のお爺さんが長椅子を並べて、花火が上がるのを待っているようだった。
マユさんは黙ったまま手水舎に向かい、右手で柄杓を持って水を汲むと、そのまま左手に水をかけた。
さらに柄杓を左手に持ち替えて右手を洗うと、今度は両手で柄杓を握り、軽く持ち上げて持ち手に水を流す。
マユさんは、こういった一つひとつの所作が丁寧で、とても美しくみえる。
なんというか、動きに淀みがないのだ。
私も荷物を置いて、同じように手を清めてみる。
「ん」
マユさんが短い言葉と共に、ハンドタオルを差し出してきた。
「ありがとうございます」
少し笑顔を見せて、それを受け取る。
返す物だしあまり濡らしたくないなと思い、手をぱっぱっと払い、残った水滴だけを軽く拭う。
そこで、あることに気付く。
これ、京都のよーじやで買ったハンドタオルだ。
私も色違いで、同じのを買ったんだった。
思えば京都は本当に、思い出深い土地になってしまったものだ。
「どーしたの、ぼーっとして」
「いや……京都でのことを思い出してて」
あぁ〜と、マユさんが頷く。
「まー、イロイロアッタシネー」
「なんで棒読みなんですか?」
笑いながらハンドタオルを返す。
マユさんのことだから、きっと照れ隠しなんだろう。
「はい。五円玉用意しといたから、一応お参りしとこ」
「マジ、お母さん」
「まだ、言うか」
いつものやりとりをし、お参りを済ませると、花火が見えそうな場所を探す。
するとお爺さんズが、長椅子を持って近寄ってきた。
「花火かい?」
はい、とマユさんが返事をすると、お爺さんズが嬉しそうに笑みを浮かべる。
ちなみに私は、内心で「美人でしょ〜」と、自慢しているところだ。
「おう。じゃあ、そこで見てけ」
「ワシらは向こうにおるから、安心してな」
下町紳士なお爺さんズの、粋な計らいだ。
自分たちのことは気にせずどうぞ……といった、さりげない気配りが素敵に感じる。
「ありがとう〜ございます〜」
語尾にハートをつけて、可愛らしくお礼をしてみる。
お爺さんズは顔をくしゃくしゃにして笑顔を見せると、少し離れた自分たちの長椅子へと戻っていった。
「うわー、あざとー」
「いいじゃないですか、喜んでくれたんだし」
私は気にもせず、用意された長椅子に座った。
マユさんも隣に座ると、さっき出店で買った食べ物を二人の間に並べ始める。
とりあず、最初はベビカスだ。
紙袋に入った卵状のカステラをひとつ取り出し、口の中に投げ入れる。
うん、ほんのりあたたかくて美味しい。
「マユさんも、おひとつどうぞ」
そう言ってベビカスをひとつ取り出し、マユさんの口元に近づける。
「アーンとかするの、久々」
マユさんは笑いながらも、パクッと一口で平らげた。
ちょうど、その時だ。
私たちの目の前に、ひとつ目の花火が上がったのだ。
ドーンと胸を突くような低い音が鳴り響き、夜空に大輪の火花が咲く。
「わぁ……」
二人同時に、感嘆のため息を漏らす。
そしてしばらくの間、次々と打ち上がる花火に目を奪われてしまった。
「思ってたより、食べながら見れないですね」
「そだね」
クスクスと笑う二人。
少し見つめ合い、どちらからともなく手を握る。
「食べ物、邪魔だね」
「のけちゃいます?」
やはりクスクスと笑う二人。
そして、二人の間にあった食べ物をのけて、ピッタリとくっつく。
「たーまやー!」
少し離れた場所で花火を見ていたお爺さんズが、興奮のあまりに拳を振り上げて、そう叫んだ。
その子供のようなはしゃぎっぷりに、私とマユさんは顔を見合わせて、思わず吹き出してしまう。
そして、負けないくらいの大きな声で「かーぎやー」と返すのだ。




