サマー・フェスティバル!(2)
昔からあるノスタルジックなお店と、最近できたのであろう若者向けのお洒落なお店が立ち並ぶアーケード通りは、活気に溢れていた。
アーケード通りと交差するように、幾つもある細い路地には、小さなお店とお祭り感満載の出店が立ち並んでいる。
路地側の人混みは、アーケード通りと比べれば幾分ましに見える。
「こっち」
マユさんは、ワイヤレスイヤホンを片方だけつけて、私の手を引っ張った。
たぶんスマホで、ナビの誘導を聞いているんだろう。
ちゃんと私の声が聞こえるように、私とは逆側の耳にだけつけてくれている。
いまさら前彼と比べるのは馬鹿馬鹿しいことなんだけど、そういうスマートなところも魅力的なのだ。
「あ、マユさん。綿菓子売ってる」
「あれ、本気だったのね」
呆れ半分の笑顔を、向けられる。
当然、綿菓子は子供の頃から変わらない、お祭りのマスト・アイテムだ。
お祭り以外だと食べる気が全く起きない、不思議なお菓子でもあるけど。
「ベビーカステラもあるね」
「それもマスト・アイテムです。もちろん、食べます」
「はいはい。お祭りといえば、焼きそばとか、タコ焼きとかは?」
「あれは青のりとか、においとか……そういうのが口の中に残って、気になるじゃないですか」
「そこは、乙女なのね」
「当たり前じゃないですか」
もしこの後、キスとかするようなイベントがおきたら……なんて考えると、気になるに決まっている。
というか……マユさんは、そういうの気にしないんだなー。
なんかソレはソレで、マユさんっぽいなぁと思ってしまう。
とりあえず私は綿菓子を片手に持ち、手を繋いだまま、次のベビカスの列に並ぶ。
その時、後ろから不意に声をかけられた。
「あれ、お二人!」
ん? と振り向くと、そこにいたのは会社の一年先輩、葵 千弥さんだった。
もちろん、マユさんの後輩にもあたる。
「お祭りですか?」
返事に困った私は、間抜けにも口をパクパクとさせてしまった。
「あぁ……葵……さんも花火?」
かろうじて、そう答えたのはマユさんだ。
会社では、誰に対しても一定の距離をおくクールなマユさんが、珍しく戸惑っていた。
だって……
「えぇ? 夕璃ちゃん、手ぇ握ってるー!」
そう、思いっきり手を握って……いや、何ならしっかりと恋人繋ぎをしているのだ。
どうするの、これ。
今さら手を放したら、それはそれで怪しまれる?
でもこのままじゃ、マユさんも困るだろうし……
「いやぁ、これはぁ、私が無理矢……」
スッと手を放そうとすると、それに気づいたマユさんが、ぎゅうと力を込めて握ってきた。
そして、チラリと私に視線を向けてくる。
黙ってて、といった目だ。
「そうそう……せっかくだから、手を繋いで行こうって、盛り上がっちゃって」
千弥さんが、パチパチと目をしばたかせている。
まるでマシンが、ものすごい計算をしているみたいだ。
「へ……へえぇ〜。先輩もそんなノリの時、あるんですね?」
これは……千弥さん、混乱してる?
まぁ、するよね。
私でもこんなところを見たら、邪推しちゃうだろうし。
「というか……夕璃ちゃんと先輩、そんなに仲良かったんですね?」
「私、会社だとプライベートなことは、見せないようにしてるからね。だから……一応これは、秘密にしてもらっていい?」
「あっ……あぁ……へぇ……あっ、はい。なるほど! 私、すっごく応援します!」
「いや応援とか、そういうのいいから……」
「大丈夫です、私もプライベートは守りたい派なので! じゃぁ、私は河岸に席あるんで! お二人とも、また会社で!」
千弥さんは、ビシッと敬礼みたいなポーズをとると、満面の笑みを浮かべたまま走り去ってしまった。
まるで、竜巻が去った後のようだ。
私とマユさんは、しばらく呆然としながら、千弥さんの後ろ姿を見送っていた。
やがてマユさんが、やれやれと口を開く。
「あー、バレたかもかねーこれ」
「かもですね。でも恋人だとか、そういう……一線をこえた関係だとかまで、分かるかなぁ?」
「どうだろ。まぁ、いいんだけどね。私は隠す気ないし」
「そうなんですか?」
私が聞き返すと、マユさんは当たり前でしょと、不思議そうに見つめてくるのだ。




