サマー・フェスティバル!(1)
夏祭り行ってそうだなぁと考えてたら、書きたくなりました。
「マユさーん!」
私は混み合う駅の前で浴衣姿のマユさんを見つけると、大きく手を振りながらピョンピョンと飛び跳ねた。
するとマユさんがスマホを持った右手を持ち上げ、軽く振って返してくる。
「遅い、十分遅刻!」
マユさんはそう言って、駆け寄った私に対し、ポクッと脳天にチョップを落としてくる。
なにも十分くらいで……と言いたいところだけど、マユさんは十分前行動の人だから、けっこう待たせてしまったのかもしれない。
「すみません、浴衣着るのに手間取っちゃって……」
「自分から“お祭り、浴衣で行きましょうよ”とか誘っておいて、遅れるなってぇの」
もう一度、ポクッとチョップが落ちてくる。
ちなみにマユさんは笑顔なので、全く怒ってない。
「マユさんの浴衣、朝顔ですか? 綺麗な柄ですね」
私は頭をさすりながら、マユさんの浴衣姿をマジマジと観察してみた。
京都の時とは違い、超王道の浴衣だ。
白を基調にした生地に、淡い水色の朝顔がいくつも描かれていて、とても涼やかに見える。
マユさんが着ると綺麗が増し増しで、端的に言って羨ましい。
「ユリのは……なんで、桜なの?」
「だってピンクいの、これしかなかったんですもん」
「まぁユリらしくて、可愛いけど」
「えへへ〜」
可愛いって言われた。
素直に嬉しい。
「ほら、行くよ」
マユさんはそう言うと、自然な動きで私の手を握り、引っ張り出した。
そうなのだ。
今日はマユさんと、花火大会デートなのだ。
「それにしても、混んでますね」
駅前だけでなく、歩道も花火大会に向かう人でいっぱいだ。
ちなみに来る時の電車も超混んでいて、乗るのに二本も見送ったのだ。
実のところ遅れた理由の大半は、そのせいだったりする。
「帰り、早めに出ないとヤバいね」
マユさんが面倒くさそうに、髪をかき上げる。
「これもう、帰りの電車は無理じゃないですかね〜?」
「タクシーも動けないだろうし、逆に遅くまで時間ずらすしかないかな〜」
話しながらも、マユさんがスマホで何かを検索し始める。
マユさんのことだから、きっと何とかしてくれるだろう。
こんなとき私は、歩きスマホのマユさんがぶつからないように、手を微妙に引っ張って舵取りするのだ。
「あっ、そうそう。花火会場は混むから、少し離れた場所にある神社に行くよ。小高いところにあるからよく見えるし、穴場なの」
「……ってことは、歩くんですね」
「そのために、歩きやすい下駄を買ったでしょ?」
まぁ、痛くない下駄って書いてあったし……たしかに、歩きやすいんですけど……
それでも小山を登るとなると、結構しんどそうだ。
それに……
「マユさん、お腹減りました〜」
「ん、わかってる。途中で出店あるだろうから、なんか買ってこう。今日は出店メシだぜぇ、彼女ぅ〜」
「私、綿菓子とベビカス食べたいです!」
「それ、メシじゃないし……」
呆れながらも、グイグイと私の手を引っ張ってエスコートしてくれるマユさん。
ふふふ。
これ、楽しんでいる時のマユさんだ。
それが分かると、私もついつい嬉しくなってしまうのだ。




