ハッピー!
現在、深夜一時。
あれから……
えっと……
まぁ、色々とありまして……
「なにやってんの。早く浴衣着なさいよ」
「いやぁ、もうちょっと余韻に浸っていたいなぁって」
「馬鹿なこと言ってないの。私たちには、まだ仕事が残ってるでしょ?」
「そうでした」
チョップをされる前に立ち上がり、浴衣に袖を通すと、どこかにすっ飛んでいった帯を探す。
ちなみにマユさんは、既にビシッと浴衣を着こなし、タブレットを使って撮影する場所を確認している。
すっかり会社でよくみるできる女、マユ先輩だ。
「さっきまで、あんなに乱れてたくせに」
「あぁん?」
ヤンキーみたいな返事をされた。
それはそれで、好きかも。
私の準備が終わると、二人で部屋から出た。
外に人の気配はなく、静寂だけが支配していた。
時間も時間だし、みな寝てしまっているのだろう。
まるでこの世界には、私とマユさんしかいないかのようだった。
人の邪魔がないせいか、あっという間に撮影も終わってしまう。
「私らも撮る?」
マユさんが、笑顔でスマホを向けてきた。
「二人で記念に、ですね。撮りましょう♪」
スマホを置いて、廊下に並び、ぴったりとくっつく。
うふふ。
うれしい。
そこで私は、何故かマユさんと出会った最初の朝のことを思い出した。
「そういえば……私、女同士でああいうことするの初めてだと思ってましたけど……そもそも、二回もワンナイしてましたよね?」
「あ……あぁ〜」
バツが悪そうに、口の端をひくひくとさせるマユさん。
マユさんは、記憶をなくすほど酔っていなかったから、覚えているのだろう。
「私、酔ってて覚えてないんですけど、どんなだったんですか? さっきみたいな感じで、マユさんにリードされてたんですか?」
「いやぁ……あはは」
なぜか、気まずそうに頭を掻く。
どうも様子がおかしい……気がする。
「……まさか、私からマユさんに迫っていったんですか?」
「いやぁ、そうじゃなくてね」
今度は、あからさまに視線を逸らす。
あやしい。
どんなに説明を求めても、答えてくれなかったし……何か隠していそう。
「もう一線超えちゃったんだし、今更いいじゃないですか? 教えてくださいよー」
「うぅ〜ん、まぁ……ねぇ」
悩む素振りを見せながら、腕を組み首を傾げる。
やがて大きめのため息をひとつすると、観念したかのように話し始めた。
「一回目はね……」
「はい」
思わず、ごくりと唾を飲み込む。
私はあの時、何をしたというのだ。
「バーで失恋したてのユリに絡まれて……話の途中でウチの新入社員だって分かったから、とりあえず私の部屋に連れてって……あっ、ユリが泥酔してて帰れそうになかったから、だからね?」
「はい……」
めっちゃ迷惑かけてる。
知ってたけど、改めて聞くと酷い。
「次の日は入社式だし、服にシワがつかないようにって思って、脱がせて、そのまま寝た」
「えぇ……?」
えぇっと……つまり、何もしてない。
「二回目はね、あんたが泡盛で泥酔して……」
「うへぇい」
そうだった。
飲む前のことは、なんとなく覚えてる。
それから、一瞬で記憶がなくなったんだけど……
「なんか寝転がってダウンしてるなぁって思ってたら、ユリ、そのまま自分の服の上で寝ゲロしてて……」
「ね、寝ゲロっ!?」
「くっさいし、仕方ないから私が脱がせて、服も洗って、部屋も掃除して、外に干してたら、あんたその間にベッドで寝ちゃって……」
あぁ……
あぁー!
確かに次の日の朝、買ったばかりのスウェットも、スーツも洗われてた!
で、マユさんの服を借りたんだ!
「えっと、じゃあ……」
「うん。ユリは二日とも、酔い潰れて、寝てただけだよ」
「えぇっと……なにもしてないってことですか?」
「うん。ほんとに、二人で寝てただけ」
あんぐりとしてしまう。
唖然としてしまう。
呆然としてしまう。
このまま消えてしまいたいくらい、恥ずかしい。
「なんでそれを、教えてくれなかったんですか!」
「あぁ〜だってユリ、なんか勝手に抱かれたとか妄想してるし、その方が面白そうだったから?」
「……で、何があったか聞いても、全部濁してたんですか?」
「えへへぇ〜、ごめぇ〜んちょ♪」
「ちょ、じゃないですよ!」
「まぁまぁ、いいじゃん。結局、こうなったんだし」
ペシペシと頭を叩くマユさんに、それでも私は口を尖らせて抗議した。
この人はこれからも、こうして私をからかい、ちょくちょく呆れ、たまにお母さんのような小言を言っては、ドキドキとさせてくるんだろう。
私は頭をさすりながら、満更でもなさそうに笑みを浮かべて返すのだ。
これにて完結です。
文フリでの販売用に、ユリ文芸を1冊書いてみようと思い、執筆し始めました。
そんなに深くない、ライトでポップなラブコメを意識しましたが、ユリへの理解が乏しく本当に書けているのか自分でもよくわかっていません。(笑)
それでも、終始楽しく書いていました。
とりあえず作者だけは、とても楽しめた作品です。
今後は紙の本にし、短めのアフターストーリなんぞ足して、イベントで販売しようと思います。
短い作品でしたが、最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。




