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【完結済】あなたが、ユリを望むなら。  作者: Ni:
あなたが、ユリを望むなら。1
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イフ・ユー・チューズ・ミー!

「私ね……」


 マユさんが、ポツリと呟いた。

 私はマユさんの肩にもたれかかったまま、小さく頷く。


「ユリとは、いっぱい喧嘩したいな」

「喧嘩? なんでまた。そんなの、わざわざしたいですか?」


 私が苦笑すると、マユさんは視線を外の庭に向けたまま、同じトーンで話を続けた。


「蒼井君とは、喧嘩したことないんだ。激しく言い合ったのって、さっきのが初めてかも。だからさっき、どうしていいのか分からなくなっちゃって」


 はい、と先の言葉を促す。


「ユリとはね、百回喧嘩して、百回仲直りしたい」

「百回って……それもう、関係ぶっ壊れてません?」


 私が笑うと、マユさんもフフッと声をもらす。


「例えばの話だよ。そうしたら、百通りの仲直りの仕方を見つけられるでしょ?」

「それは……喧嘩をしたいんじゃなくて、喧嘩別れしないようにしたいってことですか?」

「そう、そんなとこ。色んな仲直りの仕方が分かっていれば、ユリと長く続くのかなって」


 マユさんの言いたいことを、深く考えてみる。

 喧嘩なんて、しないにこしたことはない。

 でも長く続く夫婦のような関係というものは、いくつもの仲直りの仕方を知っていそうだ。

 一時の感情に流されず修復するために必要な、二人だけの公式を持っているのだろう。


「それって、なんでも話せて一人で結論を出さない、なんでも二人で相談し合える仲とかに似てます?」

「そう……だね……ソレかも。なんだ、ユリのがうまく言葉にできてんじゃん」

「でも、百通りの仲直りの仕方を見つけたいって考え方、ライカさんっぽくて好きです」

「そこで、ライカを出す?」


 私の隣で本物のライカさんが笑っているのだから、不思議な気分である。

 でも、ここは避けてはいけないことだ。


「もう、歌わないんですか?」


 少しの沈黙。


「だって、あんな別れ方したんだし」

「それと音楽としてのユニットを解消するのは、なんか違う気がします。二人とも、お互いの才能に惚れあってたのは事実なんですよね?」

「そうだけど……」

「それが仕事なのか、趣味なのかは別として、もう一度話し合ってもいいと思います。それこそ、仲直りの仕方をひとつ作るように。実はまだ続けたいって、お互いに思ってるのかもしれませんよ?」


 マユさんが押し黙る。

 ちゃんと深いところまで、考えているのだろう。

 これはイチファンとしての願望ではなく、マユさんに後悔を残してほしくない、その一心からでた言葉だ。

 だからこそマユさんは、真剣に受けとめてくれていた。


「うん、わかった。連絡してみる」

「はい」


 よかったぁと安堵のため息を出すと同時に、ハッとあることが脳裏によぎった。


「あ、でも男女の関係に戻ってもいいって意味じゃないですよ!」

「分かってるわよ。そんなことする訳ないでしょ?」


 マユさんは不敵な笑みを浮かべながら、私のメガネをすいっと外した。


「えっと……しちゃいます?」

「嫌なら言ってね」


 嫌……じゃない。

 どうしたらいいのかは分からないけど、きっと大丈夫。

 だから私は首を横に振り、こう答えた。


 ──あなたが、夕璃ユリを望むなら──

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