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【完結済】あなたが、ユリを望むなら。  作者: Ni:
あなたが、ユリを望むなら。1
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ライク・オア・ラブ?

「すごく疲れましたね〜」


 広縁にある椅子に座り、外の庭をぼんやりと眺める。

 月明かりに照らし出された小さな坪庭は、各部屋ごとにあるもので、言ってみればこれは、私とマユさんだけの日本庭園というわけだ。

 もう一つの椅子に座るマユさんも、穏やかな表情で庭を見ている。

 お酒を片手に、なんて贅沢な時間を過ごしているんだろう。


「ちょっと、飲みすぎないでよ。このあと撮影もするんだよ?」

「わかってますって〜。でもそんなの、夜中でもいいじゃないですか〜」

「そりゃそうだけど、寝ちゃったらどうするのよ」

「大丈夫ですよ〜。今夜は寝かさないぞって、言ってくれればいいんですよ〜」

「……酔ってるし」


 呆れるマユさん。

 なんだろう。

 すごく、かまってほしい。


「よいしょ」


 私は立ち上がると、マユさんの隣に掛け布団を持ってきて、その上に座る。

 そして、黙ってマユさんを見上げてみる。

 マユさんはしばらく椅子に座っていたが、やがて諦めたかのように椅子から掛け布団へと移ってきた。

 私はジンが入った缶をテーブルに置き、マユさんの腕に絡みつく。


「ちょ、ちょっと、こぼしちゃうって」

「じゃぁ、それも置いてください」

「もう。ほんと、調子狂う」


 言いながらも、マユさんがテーブルに缶を置く。


「嫌ですか?」

「嫌っていうか……あんた、こういうの無しじゃなかったの?」

「正直わかんないです。でも、今はこうしたいんです」


 これが酔った勢いなのか、私にも分からない。

 でも、嫌なことだとは思えない。


「マユさんはこういうの、どうなんですか?」

「いや、まぁね。キスとか軽い感じなのは友達ともできるけど、一線こえるっていうのは経験がないし……そもそも、考えたこともないけど」

「で、どうなんですか?」


 マユさんが、少し考える素振りを見せる。

 それだけ真剣に考えてくれているということだ。

 その真面目な気持ちすら、嬉しく思う。


「そうだね」


 何かを決意したかのように頷き、真っ直ぐな瞳を向けてくる。


「ユリのこと、好きだよ」


 ドクン。


 ドクドクドク。


 心臓が跳ねるように音をあげ、熱い血液を全身へと送りつけようとする。


 こんな気持ち、いつぶりだろう。


 前彼に告られた時ですら、こんなふうにはならなかったのに。


「それは……恋愛ですか?」

「たぶん、ね。正直、分からないことの方が多いよ。でも、少なくとも友達に対する好きとは違う」


 すごいハッキリと答える。

 でも、言葉に嘘を感じない。


「ユリは?」


 ビクンと、肩に力が入ってしまう。


「えぇっと……私、ですか?」

「そりゃそうでしょ?」


 私はぁ……と、言葉を濁す。

 私にはまだ決意というか、真剣に向き合う時間が足りていない。

 それでも、何か答えなくてはいけない。

 それは、後でとかではなく、今なのだ。


「ほんとに分からないです。でもそれは、初めてだからなんだと思います。でも……私も友達とは違う、特別な感情です」

「じゃなくて」

「へ?」


 思わず、間抜けな返事をしてしまった。

 何か的外れなことを、言ってしまったのだろうか。


「ライク・オア・ラブ?」


 あぁ、うん。

 そういうことか。


「友達はライクなので、マユさんは……ラブです」


 二者択一なら、そうなってしまうだろう。

 でもラブはともかく、愛してるっていうのはよく分からない。

 そんな感情自体、持ったことがないからだ。


「じゃあ、付き合ってみる? よく分かんないんけど」

「はい。よく分かってないですけど」


 そうして二人で、クスクスと笑いあった。

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