ライク・オア・ラブ?
「すごく疲れましたね〜」
広縁にある椅子に座り、外の庭をぼんやりと眺める。
月明かりに照らし出された小さな坪庭は、各部屋ごとにあるもので、言ってみればこれは、私とマユさんだけの日本庭園というわけだ。
もう一つの椅子に座るマユさんも、穏やかな表情で庭を見ている。
お酒を片手に、なんて贅沢な時間を過ごしているんだろう。
「ちょっと、飲みすぎないでよ。このあと撮影もするんだよ?」
「わかってますって〜。でもそんなの、夜中でもいいじゃないですか〜」
「そりゃそうだけど、寝ちゃったらどうするのよ」
「大丈夫ですよ〜。今夜は寝かさないぞって、言ってくれればいいんですよ〜」
「……酔ってるし」
呆れるマユさん。
なんだろう。
すごく、かまってほしい。
「よいしょ」
私は立ち上がると、マユさんの隣に掛け布団を持ってきて、その上に座る。
そして、黙ってマユさんを見上げてみる。
マユさんはしばらく椅子に座っていたが、やがて諦めたかのように椅子から掛け布団へと移ってきた。
私はジンが入った缶をテーブルに置き、マユさんの腕に絡みつく。
「ちょ、ちょっと、こぼしちゃうって」
「じゃぁ、それも置いてください」
「もう。ほんと、調子狂う」
言いながらも、マユさんがテーブルに缶を置く。
「嫌ですか?」
「嫌っていうか……あんた、こういうの無しじゃなかったの?」
「正直わかんないです。でも、今はこうしたいんです」
これが酔った勢いなのか、私にも分からない。
でも、嫌なことだとは思えない。
「マユさんはこういうの、どうなんですか?」
「いや、まぁね。キスとか軽い感じなのは友達ともできるけど、一線こえるっていうのは経験がないし……そもそも、考えたこともないけど」
「で、どうなんですか?」
マユさんが、少し考える素振りを見せる。
それだけ真剣に考えてくれているということだ。
その真面目な気持ちすら、嬉しく思う。
「そうだね」
何かを決意したかのように頷き、真っ直ぐな瞳を向けてくる。
「ユリのこと、好きだよ」
ドクン。
ドクドクドク。
心臓が跳ねるように音をあげ、熱い血液を全身へと送りつけようとする。
こんな気持ち、いつぶりだろう。
前彼に告られた時ですら、こんなふうにはならなかったのに。
「それは……恋愛ですか?」
「たぶん、ね。正直、分からないことの方が多いよ。でも、少なくとも友達に対する好きとは違う」
すごいハッキリと答える。
でも、言葉に嘘を感じない。
「ユリは?」
ビクンと、肩に力が入ってしまう。
「えぇっと……私、ですか?」
「そりゃそうでしょ?」
私はぁ……と、言葉を濁す。
私にはまだ決意というか、真剣に向き合う時間が足りていない。
それでも、何か答えなくてはいけない。
それは、後でとかではなく、今なのだ。
「ほんとに分からないです。でもそれは、初めてだからなんだと思います。でも……私も友達とは違う、特別な感情です」
「じゃなくて」
「へ?」
思わず、間抜けな返事をしてしまった。
何か的外れなことを、言ってしまったのだろうか。
「ライク・オア・ラブ?」
あぁ、うん。
そういうことか。
「友達はライクなので、マユさんは……ラブです」
二者択一なら、そうなってしまうだろう。
でもラブはともかく、愛してるっていうのはよく分からない。
そんな感情自体、持ったことがないからだ。
「じゃあ、付き合ってみる? よく分かんないんけど」
「はい。よく分かってないですけど」
そうして二人で、クスクスと笑いあった。




