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ブルームーン・ライカ!

 初日は簡単な仕事の流れやアプリケーションの使用方法、社内での決まり事、今後のカリキュラムなどが説明された。

 実務に入るのは明日以降になるのだろう。

 そんなこんなで、あっという間に定時になってしまう。

 できれば、マユさんから昨夜のことを聞き出したいんだけど、マユさんはまだ帰れなそうだ。

 とりあえず私は、そのまま会社を出て駅ビルに立ち寄ることにした。


 流石に人が多い。

 たぶんこの後は会社帰りの人が増えて、もっと混み始めるのだろう。

 私はバッグからワイヤレスイヤホンを取り出すと、お気に入りの曲をかけた。

 こうしておけば、洋服を見ている時に店員さんが話しかけてこないんだよね。

 ふんふんと鼻歌を歌いながら好きな洋服を眺めるのは、私にとってささやかな幸せなのだ。


「これ、かわいいなー」

「あー、いいんだけど、似た色の買ったばっかだしなー」

「あっ、このスカート、かわいいライン」


 などと楽しんでいると……


「お客様ー、これなんて着合わせにいいですよー」


 と、耳元で声をかけられた。

 このモードの私に話しかけてくるとか強者な店員だなーと思いつつ、ここは聞こえていないふりをしよう。


「これなんて、お似合いですよー」


 無視、無視。


「お客様ー」


 しつこいなー。


「聞けよ、オイ!」


 声の主が、私の耳からイヤホンを無理やり奪う。


「ちょっと!」


 あまりの仕打ちに振り向くと、そこにいたのはマユさんだった。


「なーによ、すっごい無視すんじゃない。何をそんなに熱心に聞いていたのよ」

「わっ、マユさん! あ、ちょっと、返してくださいよ!」


 しかしマユさんは、わたしのお願いも無視してイヤホンをつけてしまう。

 そして無言での試聴。

 しかも、わりと長い。


「あー、これ、ブルームーンの新曲?」

「そ、そうです!」


 ブルームーンは、最近人気が出始めているボカロPだ。

 作る楽曲はどれも疾走感があり、歌詞も泣かせるものが多い。

 歌い手も何人かいるのだけど、その中でも……


「私の推しは、 雷火(ライカ)さんなんです!」

「……へぇ……歌い手さん?」

「そうです! 女の人で、まだそれほど知名度はないんですけど、すっごい色っぽい声で、裏声の声幅もすごくて、圧倒され……て……」


 キョトンとした顔で私を見つめる、マユさん。

 やってしまった。

 つい興奮して、まくし立てるように説明してしまった。


「ようするに、好きなの?」

「あ、はい。すみません……」

「なんで謝るのよ」


 マユさんが、笑いながらイヤホンを返してくれる。


「あの……お疲れ様です」

「ん、お疲れー。どっか食べに行こうかー」


 ナチュラルに誘われた。

 でもこれは、昨夜のことを聞き出せる良いチャンス。


「いいんですか?」

「それとも、私ん家よってく? 一駅だし」

「……いいんですか?」


 ナチュラルに誘われた。

 そして、若干の警戒をみせる私。

 だって私に同姓との趣味はないんだし、昨夜ナニかあったとしたらそれは事故なんだ。

 ソレも説明しなきゃなんだけど。


「いーよー。ていうかあんた、昨日の格好のまんまじゃない。スーツとはいえ、それってどうなの?」

「く、くさくないですし!」

「何でもいいから、ウニシロで買ってこ。流石に、二日連続だと嫌でしょ?」

「うぅ……ありがとうございます。何から何まで、すみません」


 そうして私は、その日のうちに、再びあの部屋にもどることになったのだ。

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