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【完結済】あなたが、ユリを望むなら。  作者: Ni:
あなたが、ユリを望むなら。1
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アフター・ザ・レイン!

 レンタルの着物を返却し、旅館『よしの里』に戻った私とマユさんは、とりあえず浅田さんに連絡を入れた。

 向こうは物撮りの最中だったが、撮影のカット数が四点くらいしかなく、もうすぐ終わるそうだ。

 浅田さんには、気兼ねなく休んでいいよと言われ、私たちはその言葉に甘えることにした。

 とはいえ旅館のお客が寝静まった頃に、部屋まで続く外の通路を撮影しなくてはならないので、それまでの休憩となる。

 旅館の若女将である祥子さんには、ちゃんとお客様として扱われていて、ちょっとした旅行気分だ。


「旅行は旅行でも、傷心旅行ですね♪」


 私が笑顔でそう言うと、マユさんがうるさいとチョップをお見舞いしてきた。

 よかった。

 ちょっとだけ、いつものマユさんにもどってきたみたいだ。


「とりあえず、お風呂ですか?」

「そだね。その間に、部屋に料理を用意してくれるみたい。懐石料理っていうの? 政治家みたいなやつ」

「マダイイマスカ、ソレ」


 元彼のアホっぽい発言を真似てくるマユさんに、目を細めて返す。

 うん、やっぱり少し落ち着いてきたのだろう。


「わぁ、お風呂セットがラタンバッグに入ってる。かわい!」

「でしょ。私、さっき写真撮っといた」


 そんな何気ないやりとりに、私は思わず頬を緩めながら、替えの下着を詰め込んだ。

 マユさんはというと、既に準備万端のご様子だ。

 扉の前に立ち、早くしろと言わんばかりに、腕組みをして待っていた。


 この宿の部屋は一つひとつが独立しているため、館内とはいえ通路は外になる。

 地面に埋め込まれたライトが、濡れた石の通路を照らし出していて、とても雰囲気がいい。


「これ、わざと濡らしてるんだよ」


 マユさんが、説明を続ける。


「昔から、映画とかでよく使われる手法だね。なんでもないシーンとかは昼間に撮影するより、夜にして道路を濡らした方が絵が引き締まるってやつ。でも雨を降らせるとシーン撮りが大変になるから、必ず雨は上がっているのよね〜」

「あぁ〜たしかに暗い色で締まりが出るし、光が反射して綺麗かも」

「夜のシーンは道路を濡らせって、かなり定番みたいだよ」


 さすがマユさん、雑学もすごい。

 じゃあこれも、この旅館の演出なんだ。

 本当に細かいところまで考えているんだなぁと感心しつつ、あとでここを撮影するんだよねと、無意識のうちに撮影スポットを探してしまう。

 でもまぁ、マユさんのことだ。

 きっと既に、いい撮影スポットを見つけているんだろう。

 そうこうしているうちに、私たちはお風呂場へと到着した。

 しかしここは、お昼に撮影した大浴場とは違うようだった。


「あれ、マユさん。ここって……?」

「貸切風呂。大浴場は、もう見たしね。せっかくだから、予約入れといた」

「さすがぁ〜抜かりないですね」


 本当に、こういうところも頼りになる。

 というか、前彼より気が利いている。


「時間、三十分しかないから、早くしなよ」

「まるで私がノロマみたいに……」

「いいからほら、早くする!」

「まぁた、お母さんモード……」


 そしてまた、脳天にポクっとチョップをいただいてしまった。

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