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【完結済】あなたが、ユリを望むなら。  作者: Ni:
あなたが、ユリを望むなら。1
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ライト・ユア・フューチャー!

 店の中からだと分からなかったけど、外はすっかり日が暮れてしまっていた。

 人気のない細い路地では、小さな行灯型の照明が、足元を優しい光で照らし出している。

 その行灯のすぐそばで、小さくうずくまるマユさんがいた。

 私は大きく深呼吸を、ひとつする。

 何をどう話せばいいのかわからないけど、一人にはできないと感じた。


「マユさん……」


 すこしだけ距離を置いて、声をかけてみる。

 マユさんの肩がピクリと反応し、やがて一度だけ小さく頷く。

 こんなマユさんを見るのは、初めてだ。

 だから、私は……


 カシャッ!


 シャッター音に驚いたのか、マユさんが目を丸くして、顔をこっちに向けてきた。


「な、なに?」

「ロックな着物で落ち込んでるマユさんとか、ウルトラ・レアなんで、記念にって思って」


 呆気に取られてポカンと口を開けるマユさん、端的に言って可愛い。

 かっこいいイメージが先行しがちだけど、たまにこういう可愛い反応するんだよね。


「すっごい、鬼畜」

「えへへ〜。知ってます? 私、気心が知れた相手には、けっこう意地悪なんですよ?」


 マユさんは呆れた顔を見せると、ゆっくりと立ち上がった。


「知ってた」

「ですよねー」


 私は笑顔のまま、マユさんと腕を組む。


「またその、にへら〜笑いする。何が嬉しいんだか」

「えへへ〜。だって着物マユさん、見納めですからね。さぁ、返しに行きましょう?」

「……うん」


 マユさんは少し弱々しく、小さな歩幅で歩き始めた。

 私はそんなマユさんを支えるように、しっかりと腕を組んだまま歩幅を合わせて歩く。


「蒼井だから、ブルームーンなんですか?」


 唐突に聞いてみる。

 どのみち、聞かないわけにはいかないのだ。


「そうだよ。蒼井つき君。漫画みたいな名前でしょ?」

「なんか、強そう」

「ふふ……強いよ、あの人。本当に」


 わずかに、笑みを見せる。


「でも強すぎてね、私には無理。頑張って横に立てるように、強くなろうとしたんだけどね」

「私の中のマユさんは、綺麗でカッコよくて、強いですよ」

「今、こんな支えられて歩いてるのに?」

「店の中で、気丈に振る舞っていたマユさんは、強いと思いますよ?」


 マユさんがもう一度、笑う。


「なぁにぃ? めっちゃ慰めてくれんじゃん。惚れたの?」

「というか、さっきマユさんに軽く告られた気がするんですけど?」

「うっ……」


 マユさんが、額に手を当てて項垂れる。

 少し冷静になれて、色々と思い出したのだろう。


「やゔぁい。会社の人の目の前で、とんでもない痴話喧嘩みせちゃったよ」

「恥ずいですよねー」

「しにたい……ユリの前彼の痴話喧嘩くらい恥ずかしい」

「それ、いま言うっ!?」


 私のつっこみに、マユさんは初めて声を上げて笑った。

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