ライト・ユア・フューチャー!
店の中からだと分からなかったけど、外はすっかり日が暮れてしまっていた。
人気のない細い路地では、小さな行灯型の照明が、足元を優しい光で照らし出している。
その行灯のすぐそばで、小さくうずくまるマユさんがいた。
私は大きく深呼吸を、ひとつする。
何をどう話せばいいのかわからないけど、一人にはできないと感じた。
「マユさん……」
すこしだけ距離を置いて、声をかけてみる。
マユさんの肩がピクリと反応し、やがて一度だけ小さく頷く。
こんなマユさんを見るのは、初めてだ。
だから、私は……
カシャッ!
シャッター音に驚いたのか、マユさんが目を丸くして、顔をこっちに向けてきた。
「な、なに?」
「ロックな着物で落ち込んでるマユさんとか、ウルトラ・レアなんで、記念にって思って」
呆気に取られてポカンと口を開けるマユさん、端的に言って可愛い。
かっこいいイメージが先行しがちだけど、たまにこういう可愛い反応するんだよね。
「すっごい、鬼畜」
「えへへ〜。知ってます? 私、気心が知れた相手には、けっこう意地悪なんですよ?」
マユさんは呆れた顔を見せると、ゆっくりと立ち上がった。
「知ってた」
「ですよねー」
私は笑顔のまま、マユさんと腕を組む。
「またその、にへら〜笑いする。何が嬉しいんだか」
「えへへ〜。だって着物マユさん、見納めですからね。さぁ、返しに行きましょう?」
「……うん」
マユさんは少し弱々しく、小さな歩幅で歩き始めた。
私はそんなマユさんを支えるように、しっかりと腕を組んだまま歩幅を合わせて歩く。
「蒼井だから、ブルームーンなんですか?」
唐突に聞いてみる。
どのみち、聞かないわけにはいかないのだ。
「そうだよ。蒼井つき君。漫画みたいな名前でしょ?」
「なんか、強そう」
「ふふ……強いよ、あの人。本当に」
わずかに、笑みを見せる。
「でも強すぎてね、私には無理。頑張って横に立てるように、強くなろうとしたんだけどね」
「私の中のマユさんは、綺麗でカッコよくて、強いですよ」
「今、こんな支えられて歩いてるのに?」
「店の中で、気丈に振る舞っていたマユさんは、強いと思いますよ?」
マユさんがもう一度、笑う。
「なぁにぃ? めっちゃ慰めてくれんじゃん。惚れたの?」
「というか、さっきマユさんに軽く告られた気がするんですけど?」
「うっ……」
マユさんが、額に手を当てて項垂れる。
少し冷静になれて、色々と思い出したのだろう。
「やゔぁい。会社の人の目の前で、とんでもない痴話喧嘩みせちゃったよ」
「恥ずいですよねー」
「しにたい……ユリの前彼の痴話喧嘩くらい恥ずかしい」
「それ、いま言うっ!?」
私のつっこみに、マユさんは初めて声を上げて笑った。




