ライトアップ・ザ・ワールド!
「お恥ずかしいところをお見せしてしまい、本当に申し訳ありません」
マユさんが、深く頭を下げる。
その姿を見ているだけで、胸の奥がきゅうと締め付けられた。
「いや、そもそも俺が、お客さんを入れてしまったことが原因ですよ。今回は、はっきり断るべきでした。ごめんね」
佐原さんが、申し訳なさそうにする。
そこで今度は浅田さんが、一歩前に出て頭を下げた。
「佐原さん、撮影時間をずらすべきでした。最上君は悪くない。俺の判断ミスです。今回は本当に、申し訳ございません」
いやいや、と佐原さんが首を振る。
「とにかく今は、開店時間までに撮影を終わらせて、撤収しようと思います」
浅田さんがそう言うと、カメラを構え始める。
マユさんと佐原さんも、視線を合わせると黙って頷いた。
しばらくシャッターとフラッシュの音だけが、店内に鳴り響いていた。
そんな気まずい空気の中、私にとって太陽のような女性が現れた。
「失礼しまーす」
明るい声で入ってきたのは、真希さんだ。
ニコニコとしたまま私の隣に来ると、店内をかるく見渡す。
「うん? モッチー、あの人どこ行った?」
「あ……あぁ〜っと……」
私が返答に困っていると、マユさんが顔を向けて答える。
「いいよ、全部説明してあげて。私が迷惑を、かけたんだし」
うっ……それ言われると、ぜんぶ話すしかなくなる。
どこまで話そうかと思うけれど、とにかくマユさんを庇うようにしながら、説明するしかない。
「じゃあ、かいつまんで」
そう言って店の隅に行き、小声で説明していく。
途中、私の感情が溢れ出そうになり、胸が何度も熱くなってしまった。
真希さんは私の説明が終わるまで、黙ったまま何度も頷いてくれていた。
「ん、なるほど。わかった」
そう言って真希さんが、私の頬を親指で擦る。
一瞬、えっ……と驚く。
「泣くな、モッチー。ちゃんと、マユさんフォローしろ?」
「あ……」
そうか、いつの間にか泣いていたのか。
真希さんは太陽のような笑顔を見せると、もう一度強く頷いた。
そして、くるりと背を向ける。
「浅田さん、物撮り準備オッケーですよ!」
「あぁ〜ありがとう、真希ちゃん。こっちもこれで終わり。佐原さん、撮影する商品を用意してもらえますか?」
「あぁ、はい。あぁでも、お客さん帰ったし、ここで撮ってもいいんですよ?」
「いやいや、これ以上ご迷惑をかけられませんし。車の中にセットを組んだんで、そこで撮りますよ」
浅田さんが話しながらも、手際よく機材をまとめていく。
「ほらほら、マユさんは着物返しきてくださいよー」
「えっ……いや、私も物撮りの手伝いを……」
「いいから、いいから。マユさん、このあと宿でも撮影するんでしょ?」
そうだけど、とマユさんが少し困ったような表情を浮かべる。
「ほら、モッチー。マユさん仕事バカだから、このままだと最後まで、こっちの撮影に付き合っちゃうよ」
「真希ちゃん。そういうわけには、いかないって」
「借り物の着物きたまま物撮りの商品を持って、車とココを往復するつもりですー? 汚したら、それこそ大変ですよー?」
真希さんは、半ば強引にマユさんを店の外へと追い出すと、今度は私の背中を押しだす。
「ほら、しっかり支えてやんな」
「なんですか、そのイケメンな発言……」
「ふっふっふっ、あとはおねーさんに任せなさーい」
しかし今の私に、この強引さは有難かった。
とても優しく、その明るさに救われる気持ちがした。
「真希ちゃん、いい女になってきたねぇ」
「浅田さん、それー」
「わかってるよ。撮影終わったら、好きなだけ焼肉おごるよ」
「きたこれー!」
その明るさは、どこまで本気なのか。
私は背中を押されながら、本当に太陽のような女性だなぁと思えた。




