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【完結済】あなたが、ユリを望むなら。  作者: Ni:
あなたが、ユリを望むなら。1
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ビフォー・ザ・ストーム!

 佐原さんの撮影中も、蒼井さんから容赦のない視線が突き刺さる。

 少しでも迷惑に感じたなら、撮影の中止を申し立てるつもりなんだろう。

 でもこんな暗く狭いスペースで、迷惑をかけずに、撮影を行なえる訳がない。

 フラッシュも眩しいし、カメラの音も鳴っている。

 次第に、蒼井さんのイライラも積もっていき……


「……チッ」


 ついに、舌打ちが聞こえた。


「あっ……すみません」


 私が、反射的に頭を下げる。

 表情こそ見えないけど、大きめのため息は聞こえてきた。

 うぅ……これはシンドイ。

 早く終わらせたいという気持ちしかない。


「はい、あと三カットほど撮りますね〜」


 浅田さんが飄々とした態度でカメラを構えたまま言うと、またしてもため息が聞こえてきた。


「まだ撮るのかよ。そんなに、いらないだろ」


 もうこれは、独り言ではない。

 ハッキリとしたクレームだ。


「すみませんね、ご迷惑おかけします。なるべく早く、終わらせますんで〜」

「あんたもプロなら、無駄打ちするなよ」

「いやぁ、おっしゃる通りで。本当に申し訳ない」


 言い返すこともなく、はっはっはっと笑う浅田さん。嫌味な感じもない。ほんとに凄い。

 一方の佐原さんは苦笑いで、私はというと、ドン引きだ。

 ちなみにマユさんは、本気で申し訳なさそうにしている。

 ただその対象は、浅田さんに対してだ。

 何故だかそこに、小さな違和感を覚える。


「はい、これで終わりです〜。次は?」


 浅田さんは場の空気など気にしていないようで、ニコニコと笑顔を見せたまま、構えていたカメラを下ろす。

 するとマユさんが、カウンターに近づいていく。


「私が、お客様役で入ります。最初は佐原さんと談笑している感じで、そのあとは私ひとりで」

「はいよ〜」


 マユさんは、あまり時間をかけられないと感じているのだろう。

 すぐにカウンター席に座り、足を組んでポーズを取り始めた。

 なんだか、ロックな着物だと倍増しでかっこいい。

 というか女の私から見ても、色気すごっ……である。


「んじゃあ〜何カットか撮るから、適当に動いてくださいね」


 浅田さんのシャッター音を合図に、マユさんが無言のまま表情とポーズを変えていく。

 佐原さんもマユさんに引っ張られるような形で、少しぎこちなく動きをつけていた。

 二人はまるで、本当に談笑しているようだ。

 マユさん、実はモデルの経験あり?

 そう思ってしまうほど淀みのない動きでポーズをとっては、シャッターのタイミングを作るように動きを止める。

 ついつい綺麗だなーと、見惚れてしまうほどだった。

 だからこの時の蒼井さんの一言は、あまりにも強い不意打ちになってしまった。


「そんなふざけた着物を着て京都の特集とか、相当浮ついた記事を書くつもりなんだな。マスターも……それから真由美も、本当にそれでいいと思ってるのか?」


 その瞬間だけは、流石の浅井さんも反応できず、場の空気が凍りついた。

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