ビフォー・ザ・ストーム!
佐原さんの撮影中も、蒼井さんから容赦のない視線が突き刺さる。
少しでも迷惑に感じたなら、撮影の中止を申し立てるつもりなんだろう。
でもこんな暗く狭いスペースで、迷惑をかけずに、撮影を行なえる訳がない。
フラッシュも眩しいし、カメラの音も鳴っている。
次第に、蒼井さんのイライラも積もっていき……
「……チッ」
ついに、舌打ちが聞こえた。
「あっ……すみません」
私が、反射的に頭を下げる。
表情こそ見えないけど、大きめのため息は聞こえてきた。
うぅ……これはシンドイ。
早く終わらせたいという気持ちしかない。
「はい、あと三カットほど撮りますね〜」
浅田さんが飄々とした態度でカメラを構えたまま言うと、またしてもため息が聞こえてきた。
「まだ撮るのかよ。そんなに、いらないだろ」
もうこれは、独り言ではない。
ハッキリとしたクレームだ。
「すみませんね、ご迷惑おかけします。なるべく早く、終わらせますんで〜」
「あんたもプロなら、無駄打ちするなよ」
「いやぁ、おっしゃる通りで。本当に申し訳ない」
言い返すこともなく、はっはっはっと笑う浅田さん。嫌味な感じもない。ほんとに凄い。
一方の佐原さんは苦笑いで、私はというと、ドン引きだ。
ちなみにマユさんは、本気で申し訳なさそうにしている。
ただその対象は、浅田さんに対してだ。
何故だかそこに、小さな違和感を覚える。
「はい、これで終わりです〜。次は?」
浅田さんは場の空気など気にしていないようで、ニコニコと笑顔を見せたまま、構えていたカメラを下ろす。
するとマユさんが、カウンターに近づいていく。
「私が、お客様役で入ります。最初は佐原さんと談笑している感じで、そのあとは私ひとりで」
「はいよ〜」
マユさんは、あまり時間をかけられないと感じているのだろう。
すぐにカウンター席に座り、足を組んでポーズを取り始めた。
なんだか、ロックな着物だと倍増しでかっこいい。
というか女の私から見ても、色気すごっ……である。
「んじゃあ〜何カットか撮るから、適当に動いてくださいね」
浅田さんのシャッター音を合図に、マユさんが無言のまま表情とポーズを変えていく。
佐原さんもマユさんに引っ張られるような形で、少しぎこちなく動きをつけていた。
二人はまるで、本当に談笑しているようだ。
マユさん、実はモデルの経験あり?
そう思ってしまうほど淀みのない動きでポーズをとっては、シャッターのタイミングを作るように動きを止める。
ついつい綺麗だなーと、見惚れてしまうほどだった。
だからこの時の蒼井さんの一言は、あまりにも強い不意打ちになってしまった。
「そんなふざけた着物を着て京都の特集とか、相当浮ついた記事を書くつもりなんだな。マスターも……それから真由美も、本当にそれでいいと思ってるのか?」
その瞬間だけは、流石の浅井さんも反応できず、場の空気が凍りついた。




