ハービンジャー・ストーム!
「モッチー。ちっちゃいレフ板、出しといてぇ」
真希さんが、組み立てたスタンドにアンブレラを差し込みながら言う。
レフ板……光を反射させる板だよね……と、カメラマンが持ってきた大きなバッグの中を漁ってみる。
「机に立てるやつねぇ。光を起こすやつ」
言ってる意味がわからないんだけど、三十センチくらいの白い板はすぐに見つかった。
板にはぐにゃぐにゃに曲がった太い針金が貼り付けられており、これがスタンド代わりになるのだろう。
なんていうかカメラマンの小道具は、手作り感満載の物が多い。
マユさんの話だとスケジュールの空いた日は、買うと高い小道具を自分たちで作ってしまうらしい。
創意工夫が経費節約にもなり、一石二鳥なんだろう。
そうこうしていると、外から他のカメラマン達が入ってきた。
「うーん、なんかなぁー」
「まぁ準備はしとくべ」
まだ名前を覚えていない、残り二人の男性カメラマン。
えっと……と、ほんの少しだけ戸惑っていると……
「吉岡さんと、和田さんだよ」
真希さんが小声で教えてくれた。
意外に視野が広い。
「あの……吉岡さん、和田さん、どうしたんですか?」
私が声をかけてみると、二人が困ったように説明を始めた。
「いやー、十九時に来る予定だった客がさ、もう来たんだよ」
「えぇぇ、早くないですかぁ、吉岡さぁん」
真希さん、ナイス。
こっちの痩せてる人が吉岡さんね。
「いま、店長の佐原さんと話してるんだわ。なんか最上さんも困ってた風で……珍しいべな」
こっちの、訛りがキツい人が和田さんか。
吉岡さんは三十、和田さんは四十代だろう。
二人とも、ベテラン感がすごい。
ていうか、マユさんが困ってた?
たしかに珍しい。
「あれぇ? じゃぁこのセット、バラす感じですか?」
真希さんの質問に、吉岡さんが頭を掻いて頷く。
「まだ分かんねーけど、車の中で物撮りのセット作っておこうかって、浅田さんが言うからなー」
「まぁ、しゃーないべ。吉岡くんと俺は先に車でセット作っとくから、真希ちゃんはここバラしといてくんね?」
「うげぇ、せっかく組んだのにぃ」
「まぁ、店長と最上さんのシーン撮影は、店内でするしかないかんな。真希ちゃんは最悪、車まで撮影商品持って行き来することになるわな」
「それは重ね重ね、うげぇ」
べぇと舌を出しながら、片付け始める真希さん。
私もそれを手伝いながら、マユさんは大丈夫かなと心配になっていた。




