ランチタイム!
「ごめん、葵さん。頼んでおいたアテンションのデザイン、できてる?」
「はいはーい。できてますよー。サーバーに入れときますねー」
「ありがとう」
マユさんは、テキパキと仕事をこなしていた。
後輩からの信頼も厚く、仕事のできる女性なんだろう。
しかも仕事を進めながらも私には課題を出し、チェックまでしてくれていた。
「あのぅ、マユさん?」
「ん? どこかわからないところでもあった?」
「昨日のことなんですけど……」
「今は仕事中よ。ある程度の無駄口は許容しているけど、ミスの元になることは意識してね」
「あ、はい。すみません」
慌てて頭を下げ、モニターに顔を向ける。
朝の挨拶の時こそ、あんな話し方をされたけど、仕事中は本当にキャリアウーマン感全開だ。
聡明で、綺麗で、仕事のできる女性にしか見えない。
今朝のことだって、まるで何もなかったかのような振る舞いをしている。
正直、私の方が戸惑っている。
そうこうしているうちに、お昼になってしまった。
「んー疲れた。夕璃ちゃん、お昼はどうするの?」
「あ……えっと、皆さんはどうしてるんですか?」
「んーお弁当持ってきたり、食べにいったり、コンビニで買ってきてたり?」
「そうなんですね。じゃあ今日は何か買ってこようかな」
「ふふ、なるほどね」
何故かマユさんが、ふくみを持たせた笑みを見せる。
そしてトートバッグから、何かを取り出した。
「はい、これ」
目の前に置かれたものは、紙の包装紙に包まれたお弁当のようだった。
包装紙には『焼き肉 大字苑』と印刷されている。
「なんですか、これ?」
私が聞き返すと、さらにマユさんが楽しそうに笑みを浮かべた。
「なにって、大字苑のお持ち帰り用弁当よ?」
「はい、知ってます。人気の……お土産用のやつですよね?」
「夕璃ちゃん、本当に昨夜の記憶がないのねー。それ、あなたが『明日のお弁当はこれ買っていきます!』って言って、自分で買ったのよ?」
「ええぇぇ?」
まったく憶えがない。
そもそも、昨夜の記憶がない。
私には、ひとりで飲みに出た記憶しかないのだ。
「朝起きたらいないし、お弁当は忘れてるし、もったいないからとりあえず持ってきたんだけど、まさかうちの新入社員だったなんてねー」
「うっ……本当に記憶にないんです。私、昨夜、どうだったんですか?」
「どうって……彼氏にフラれたばかりで、でも明日は入社式で……って、泣いたり笑ったりしてたわよ?」
最悪だ。
記憶をなくすほど飲んで、マユさんに絡んだらしい。
「あぁ……で、朝起きたらお互い裸で抱き合ってたから、びっくりして逃げたのか」
「うぅ……ごめんなさい……」
恥ずかしぬ。
まともに顔が見れない。
「あの、それで、昨夜は……」
「うん?」
「ですから、その、昨夜は……私……マユさんと?」
「うふ」
意味深な笑みを浮かべる、マユさん。
しかし、それ以上は何も言わない。
「その話は、また私の部屋にきたら、教えてあげてもいいかな」
「そんなぁ」
私が項垂れると、マユさんは嬉しそうにくすくすと笑った。