モッチー・チィーク!
「だめだめー、こんな湿気。機材ぶっ壊れますよ。窓全開にしますね!」
真希さんがバタバタと走り、露天風呂に出る扉と大きな窓を押し開けていく。
「あれ、ていうかモッチー、メガネは?」
ぐぐいと覗き込んでくる真希さん。
顔が近い。
「モッチー?」
「望月夕璃、略してモッチー」
たしかにマユさんの言う通りだ。
真希さんの距離感は、かなりバグってる。
「モッチー、モチ肌だね。適度な肉感」
モニモニと、ほっぺたを摘まれる。
ものすごい距離感だ。
というか、ぽっちゃり体型の真希さんの方が、よっぽどモチモチタマゴ肌だと思う。
「こら、うちの後輩に何してるの。大字苑1枚だよ、それ」
マユさんの一言で、真希さんがパッと手を離して解放する。
また、大字苑1枚だ。
何の話なのだろう。
「だって、モッチー可愛いんですもんー。抱き枕にしたい」
今度は抱きついてきた。
なるほど、ほんとに相手を選ばずこの距離感なんだ。
「すみません、もう服ベタベタなんで、これ以上は勘弁してください」
「あれぇ、ほんとだー。着替えなよー?」
「これ終わったら、いったん着替えます。あとメガネは、脱衣所に置いてきました」
「なるなるほどほどー。じゃあ、浅田さん呼んできますねー」
言ってバタバタと走り、出て行ってしまう。
元気な人だなー。
確かに憎めないし、すぐ仲良くなれるタイプではある。
「すんごい人ですね」
「うん、まぁ悪い娘じゃないんだけど……」
マユさんが、じぃと見つめてくる。
「なんですか?」
「とりあえず、ジャケット着なよ?」
「あぁ、そうだった! みんな来ちゃう!」
慌てて脱衣所に向かい、置いておいたジャケットを羽織る。
あまりにシャツがベタベタしていて、本当に気持ちが悪い。
袖を通すのも一苦労だ。
メガネは……一応もっていっとこう。
濡らせば、しばらく曇らないだろうし。
「すみません、マユさん。お待たせしました」
にへへ〜と緩んだ笑みを浮かべると、マユさんがほっぺたを摘んできた。
「ひゃ……ひゃんでひゅは(なんですか)?」
「たしかにモチモチ……」
「ひゃなひへふらはいほー(はなしてくださいよー)」
「うーん」
モニモニと指先で遊んでくる。
モチモチさで言えば、真希さんのが絶対すごいと思うけど。
「たしかに、ちょっと妬けるかも」
「ふぇ?」
私が聞き返すと、マユさんが摘んでいた頬を放して背中を向ける。
「え? え?」
「ほら、準備するよ!」
そしてそのまま、また撮影の準備をし始めるのだ。




