ビッグ・バス・キス!
撮影はいたって順調、さすがはプロのカメラマンだ。
きっとマユさんの段取りの良さとカメラマンの手際の良さが、うまく噛み合っているんだろう。
実際、外観・エントランスと特に問題なく終わり、今は事務所で女将さんの撮影をしている。
ちなみに、私とマユさんは一足早く大浴場に行き、次の撮影の準備をしていた。
「さすがに、湿気がすごいね」
マユさんが、幾つもあるシャワーヘッドの角度を真正面に直しながら、ため息混じりに言う。
私はというと、風呂桶を綺麗に並べているところだ。
「さすがにスーツだと……もうベタベタなんですけどぅ」
「ほんとだ。ユリ、した透けてるし」
「えぇーっ」
慌てて視線を落としてみると、確かに白のブラウスから白ブラが透けて見え始めている。
「アンタ、カメラマンが来たらジャケット羽織りなさいよー」
「この状態でジャケット着るの、超・抵抗感あるんですけど……て言うか、マユさんはあんまり透けてないような?」
「あー、今日はスポブラにキャミだから。こうなるのは予想済みー」
「なら教えてくださいよ!」
ケタケタと笑い出すマユさん。
どうやら私が困ると、とても楽しいらしい。
「……そう言えばマユさんって、真希さんと仲良いんですか?」
うん?と首を傾げるマユさん。
やがて「あー」と声をあげる。
「仲良いっていうかさー。あの娘、距離感バグってるからねー」
「ほぼ初対面の私にキスしてきたマユさんが、それ言うんですか?」
「あれはバグじゃなくて、適正距離だよ?」
くっ、そうきたか。
ちょっと嬉しい気がする私は、この暑さでどうかしてるのかもしんない。
「あの娘、まだ二年くらいだけど、いい感じのいじられキャラだからねー。性別年齢問わず、みんなにあんな感じなのよねー」
「それにしても、すっごい抱きついてましたけど?」
「なんかねー、私の腰を見てると折りたくなるとか前に言われ……」
そこでマユさんが、ハッと目を見開く。
そして、おもむろに近づき……
「やーん。もしかして、妬いてるの?」
「やっ……妬いてなんか」
「えー」
マユさんが私の頬を両手で挟み、顔ごとくいと持ち上げる。
お風呂で蒸されたせいかマユさんの頬が上気し、ピンク色に染まっていた。
さらに湿度のせいで、唇も艶かしいほどつややかだ。
「ちょ、ダメですって。ここじゃ!」
「ここじゃなきゃいいの?」
そう言いながら、マユさんが唇を近づけてくる。
そうじゃなくてっ!
……と頭の中に浮かんだものの、声にしなかったのは、無意識でその先を受け入れていたのかもしれない。
そのまま私が、トロンとした目でマユさんを見つめていたら……
「マユさーん、撮影終わりましたよー。次はここでいいんですかー?」
真希さんの大きな声が、入り口から聞こえてきたのだった。




