オーサム!
「あー……えぇ……っと……」
マイクを持ったまま、気まずそうに視線をそらすマユさん。
一方の私は顔を真っ赤に上気させて、大きく目を見開き、マユさんの次の言葉を待っていた。
「あー、はい。どうもー、ライカでーす」
「きゃー!」
思わず立ち上がり、両手で拍手をする。
しかし私の興奮はそれだけでは収まらず、ソファの上に登ると、その場でピョンピョンと飛び跳ね始めた。
「ちょ、ちょっと落ち着いて。ほんと、実際の中身はこの通り、たいしたことないんだから」
「なに言ってるんですか! ライカさんなんですよ! 私の大好きな!」
「わかったから、アンタがファンなのも理解してるから、とにかく落ち着いて」
そうは言われても、目の前に本物のライカさんがいるんだから、落ち着くだなんて無理に決まってる。
生なのだ。
リアルなのだ。
「じゃあ、ここ、ここ! 隣に座ってください!」
私がバンバンとソファを叩くと、マユさんが嫌そうに隣に座った。
「本当に……ライカさんなんだ。本物の……」
「あぁ……まぁ……はい、本物です。会社では言わないでね?」
「言わないですよぅ〜そのかわりぃ〜」
目を合わせようとしないマユさんの横顔に、鼻先がぶつかりそうなほど顔を近づける。
改めて間近で見ると、本当に綺麗な横顔だ。
細身な首筋から肩にかけての肌が綺麗で色気もあるし、足だって細くて真っ白で……
「あのー、ユリさん?」
「なんですか?」
「アンタ、さっき百合禁止って言ってなかったっけ?」
「これは百合じゃないです。憧れの現物を、生で触って確認しているんです」
私がマユさんの体をベタベタと触っていることに、ちょっと引いているようだ。
「いや、ほんと、ちょっと触りすぎというか、触り方がエグいというか」
「マユさん、私に対してあんだけのことをしといて、今さらソレはなくないですか?」
「うっ……」
「キス2回、裸で朝をむかえたのも2回ですよ?」
「いやそれは、その……その通りだけど……」
おや?
おやおや?
なんかマユさん、ちょっと頬が赤いような?
「マユさん、私に触られるの恥ずかしかったりします?」
「恥ずかしいというか……アンタ、急に積極的すぎない?」
「そりゃあ、積極的にもなりますよ。だって、ライカさんがマユさんなんだから」
「それって恋愛感情じゃなくない?」
「マユさんは好きですよ? ライカさんは元から好きですし」
マユさんが、むぐっと言葉を飲み込む。
若干、戸惑っているようにも見える。
あんなに積極的なマユさんから、また違うギャップが生まれてる。
また、みんなの知らないマユさんを知れて嬉しい。
こんなこと知っているのって、私以外に……
「じゃあマユさんの彼氏って、やっぱり……」
「ん、ブルームーンPだよ。だから、絶対に言わないでね。私はともかく、相手に迷惑かけるのは大人として、絶対に嫌なんだ」
「はーい、絶対に言いませーん」
私が素直にそう答えると、マユさんはようやく私の目を見て、安堵の表情を浮かべながら「ありがとう」と返すのだった。




