デトミネーション!
「ねぇ、他の曲にしない?」
「しませんねー。私がライカさん好きなの、知ってるじゃないですか」
うー、と頭を抱えて唸るマユさん。
私は構わず、曲を入れる。
ほどなくして、イントロが流れ始めた。
「はい、どうぞ」
私がマイクを差し出すと、マユさんは長ソファの上で、うつ伏せに寝転がったままマイクを受け取った。
そしてそのままの姿勢で、だらしなく歌い始める。
うまいのは、うまいんだけど……
私は曲をキャンセルし、もう一本あるマイクを握った。
「マユさーん。明らかに手を抜くのは、なしの方向で」
「おにー!」
ぐったりと項垂れ、今度は駄々をこねる子供のように足をバタバタとさせる。
相変わらず職場とのギャップがすごい。
とにかく可愛い。
正直、尊い。
このモードのマユさんを私しか知らないのかと思うと、ある種の優越感すら覚えてしまう。
「そういうマユさん、もっと見せてくださいよ。なんだかマユさんの秘密を独り占めしてるみたいで、けっこう嬉しいんですよ?」
わりと、正直な意見である。
するとマユさんは、ばたつかせていた足をぴたりと止める。
長い沈黙。
何か、深く考えているようだ。
やがてなにか決意をしたかのように、すっくと立ち上がった。
「曲、入れて」
凛々しい横顔だった。
その迫力に押されてもう一度曲をリクエストすると、マユさんがようやく私の方を向く。
「色々と、話さなきゃいけないことがあるって言ったよね?」
私がこくりと頷く。
「いいよ。とりあえずひとつ、話す」
そうして、マユさんが歌い始めた。
本気の歌だ。
その歌声は自信に溢れ、力強くて艶があり、時に切なげで……まるで何人もの歌い手を憑依させているかのような……いや、もう言葉で誤魔化すのはやめよう。
間違いない。
マユさんは私の大好きな、ライカさんだったのだ。




