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【完結済】あなたが、ユリを望むなら。  作者: Ni:
あなたが、ユリを望むなら。1
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フィールド・エンカウント!

 その日、仕事が終わった私は駅ビルにある雑貨屋へと向かっていた。

 今日はマユさんも早く上がれそうだったので、待ち合わせをしていたのである。


「旅行みたいとか言ったら、怒られるんだろうなぁ」


 私の頭の中は、早くも出張のことで埋め尽くされていた。

 取材については見ているだけなので、勉強とはいえ気楽なものだ。

 マユさんのテキパキした仕事っぷりを間近で見ながら、カメラマンたちのプロフェッショナルな仕事っぷりも見学できる。

 それだけで、まだ入社三ヶ月の私には楽しい。


 宿泊はビジネスホテルでも、きっと楽しかったと思う。

 今回はちょっとしたご褒美でもあるのと、ちょうど京都にある旅館の仕事が来ていたため、そこに泊まることになったようだ。

 仕事の流れとしては旅館で宣材撮影をし、夕方はバーの取材に行き、そこから旅館に戻って宿泊という流れである。

 ちゃんと仕事に結びつけるあたり、抜かりがない。


 同じ部屋……っていうのだけは、ちょっとアレだけど……


 あれからマユさんの部屋には、行っていない。

 そこはそれ、友達の部屋に行くのとは少し意味合いが違うのだ。

 少なくとも私にとってマユさんは、そういった特別な意識をもった相手になっていた。


 ちなみにマユさんの方はというと、距離感の近い女友達といった感じだ。

 特に進展もないというか、キスされたのもあの一回だけだし、たまに手を繋ぐ程度である。

 もしかしたら、本当に女同士でのそういうのが、ない人なのかもしれない。

 だとしたら、あのキスは混乱する私をみて、楽しむためだけにやったのかも?

 いや……マユさんなら、やりかねない。

 今度はこっちから何かして、困らせてみようかなとか、考えていた時だった。


「ユリ!」


 突然、後ろから呼び止められた。

 もちろんマユさん……じゃない、男の人の声だ。


「ユリ、やっと見つけた」


 男が安堵の表情を浮かべて、駆け寄ってくる。


「何度も、連絡したんだ」


 今にも泣き出しそうな顔で近寄り、私の腕を掴む。


「別れ話になる前に勤め先は聞いてたから、ここに来たら、いつかは会えるかもって思って」


 男は何かを懇願するような目で、私を見つめてくる。


 なんだ、この男。

 いや、前彼の宗谷そうやだけど。

 別れ話ってなんだ。

 一方的に、私をふったくせに。


「なぁ、一回でいいんだ。ちゃんと、話し合おう」


 ちゃんとってなんだ。

 面倒臭い展開だとしか思えない。


「今さら、なにを?」

「いや、あれは俺が悪かった!」


 そうだよ。

 悪いよ、アンタが。

 こっちはアンタを嫌いになる前に、一方的にフラれたんだよ。

 それで会いにくるとか、反則でしょ。


「とにかく、どこか話せるところで……」

「嫌だよ。今さら復縁とかないし」

「これで最後でも、いいから」


 むぅ。

 まぁ、これで最後なら、いいか。

 白黒つけてやろう……もうついているはずだけど。


「わかった。でも部屋には行かない。その辺のカフェで」


 それでいいと頷く宗谷。

 その後ろには、ちょうど待ち合わせにやってきたマユさんが、首を傾げながら怪訝な表情で、私たち二人の様子を窺っていた。

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