ユリ・ストップ!
「ここです、ここ!」
私が大袈裟にはしゃぐと、マユさんが眉を寄せて目の前のビルを見上げる。
そして、看板に書いてある文字を読み上げた。
「スイーツ・キングダム……?」
「ここ、いろんな有名店のシェフがプロデュースした、スイーツ食べ放題のお店なんですよ。マユさんって、甘いのダメでした?」
「いや、好きだよー。ただ、こういう女の子的な発想が私にはなかったから……なんていうか、新鮮な感じ?」
「逆にこういうお店って、彼氏とは来れないですからね!」
あぁー、とマユさんが深く頷いて納得する。
この手のお店の客層は、十~二十代の女の子同士がほとんどだ。
男の人にとって、女性物の下着売り場に行くのと同じくらい気恥しいものがあるらしい。
「私さー、若い時はバンドばっかやってたし、働き始めたら友達と時間も合わなくなって、気がついたら疎遠になっていくしで、こういう可愛いお店と縁がなかったんだよねー」
「私も久々ですよ。彼氏と別れた今がチャンスなんです!」
「なにそれ、前向きすぎっ」
口を押さえて笑い出すマユさんに、私は「そうでしょ?」と腰に手を当てて胸を張る。
その様子を、じっくりとマユさんが見て……
見て……
「マユさん、見過ぎです」
「まさかあんたのって、甘いものだけで、そこまで大きく育てたの?」
「何の話ですか?」
「これの話に、決まってんでしょーが」
ぐわしっ
……と、マユさんが右手で私の左胸を鷲掴みにしてきた。
「ひゃっ!」
「何なの、これ。どうしたら、こんななっちゃうの?」
「ちょっ! こんなところで、何してるんですか!」
「あー、私もたまにでいいから、こんくらい欲しいわ」
「たまに、でいいんですか……って言うか、マユさん! 約束っ、約束っ! 百合禁止!」
「はいはい、わーたって」
まったく……とため息をつきつつも、私としては、お腹と背中がくっつきそうなほどウエストが細い、マユさんのスタイルの方が羨ましいと思っているのだ。
私ってマユさんみたいな、ロックな格好とか全然似合わないし。
胸が大きい=デブと紙一重なんだし。
ワンピース着たら、マタニティみたいになるし。
「なによ?」
じーっと羨ましい気持ちで見つめていると、マユさんがその視線に気づく。
かっこいいし、美人だし、色っぽいし。
羨ましい。
「いーえ、なんでもないでーす。さ、入りましょ」
私は訝しむマユさんの手を引っ張って、強引に入店するのだった。




