ユリ・アタック!
何だかんだ朝食を楽しんでいると、テーブルの上に置いてあったスマホがブルッと震えた。
そのまま通知を見てみると、見知った名前が出ている。
「なに、彼氏?」
覗き見られたらしい。
まぁ、いいんだけど。
「元、ですよ。元」
「より戻そう、とかじゃないの? 二日目だし」
「二日でそんなこと言ってきたら、じゃあ二日前のは何だったのって思うんですけど」
「構って欲しいのよ。結構そういう男って多いよ」
そんなもんですかねーと、クロワッサンにかじりつく。
「彼女が就職して、新しい職場に行く。そこで新たな出会いがあって、声をかけてくる男もいて……とか、勝手に想像して嫉妬でもしたんじゃない?」
「それこそ、私を疑ってるみたいで、幻滅なんですけど」
「でもーじっさいー、二日もお泊まりしてー、キスまでしたしねー、ユリちゃんってば」
「それは……そう」
だとしても、今更だ。
なんか自分でも思っている以上に、未練がない。
「もどってあげれば?」
「い、嫌ですよ。もしそんな理由なら、今後も定期的にこういうのあるってことじゃないですか!」
「まーねー。束縛系なんだろーねー。でもそれって、それだけ好かれてるってことじゃない?」
「好きならばこそ、信じてほしいですし、ある程度の自由も認めてほしいです」
「そだねー。束縛系だと、私んちにお泊まりとかも、できなくなるしねー」
「そうですよ」
まったくもう……と残りのクロワッサンを、勢いのまま口の中に詰め込む。
しかしほっぺたが膨らむほど詰め込んでしまったので、飲み込むことができず、私は慌てて珈琲に手を伸ばした。
しかしそれを邪魔するように、マユさんが手を絡めてくる。
びっくりしてマユさんの顔を見ると、またしてもあのニヤニヤ顔を浮かべていた。
「いま、そうですよって言ったよねー?」
「ふがっ!?」
言った。
確かに、無意識で言ってた!
「そっかー、ちょっと私のこと意識してくれるのかー」
「そ、それは……いや、たしかにこの二日間、楽しかったのは認めますけど」
それは事実だ。
本来ならフラれたショックで落ち込んでいるはずの二日間なのに、そんな感情が一切ないのだ。
「おっ、女友達としてっです! すごく楽しいので、これを邪魔されるのは嫌なだけです!」
「へー」
「別にその、お泊まりじゃなくてもいいですし!」
「ほー」
「そもそも、そういう肉体的な関係は、求めてないですし!」
「ふーん」
なんですか、その反応はと半目で返す。
まだ楽しんでいるようだ。
やがてマユさんは、やれやれと口を開いた。
「そこ、どうして抱かれてる前提なのかなー。ユリちゃんが私をおそった、とは考えないのかなー」
えぇ?
いや記憶にはないですけど……えぇ?
私からってこと?
「お、おそったんですか?」
「ひみつー」
そして、キャハハと笑い出すマユさん。
やっぱり、どうしても憎めない。




