ヘイ・ブラザー!(3)
いつまでも頭を下げる悠斗くんにお別れを告げると、エントラスからエレベーターへと移動する。
そしてすぐにスマホを取り出し、マユさんに到着のメッセージを送った。
ADZで買ってきた手土産だけじゃなく、面白い土産話もできたし、マユさんの喜ぶ顔を思い浮かべると思わず頬が緩んでしまう。
メッセージが既読になったのを確認すると、エレベーターを降りて細い通路を抜けていく。
すっかり馴染み深い扉の前まで進み、おもむろにインターホンを鳴らす。
一瞬の間を置いて部屋の中から物音が聞こえると、ガチャリと扉が開けられた。
「おはユリ〜」
「おはマユ〜」
お互いに手を挙げてハイタッチをし、そのまま恋人繋ぎで手を握る。
最近、二人の間で流行っている挨拶だ。
ちなみにマユさんは、ルームウェアのパーカーに白い下着姿という、油断が服を着て歩いている状態だ。
明らかに寝起き装備である。
「んん? それって……?」
「来る途中にADZに寄って、焼きたてのクロワッサンを買ってきました。ちなみに珈琲は、マイボトルに入れてもらっています」
「最高に、できた嫁じゃん!」
「えへへ〜愛でてくださ〜い」
私が「にへら〜」と笑うと、マユさんが腰に手を回し、グイと力強く引き寄せてきた。
そして、そのまま唇を近づけてくる。
「好き」
吐息とともに囁かれた甘い言葉が、ふわりと私の身体を包み込む。
少しの間見つめ合い、それから自然な流れで唇を塞がれた。
思わず全身の力が、抜けそうになってしまう。
世の男にはできないであろうこの行動が、あまりにイケメンすぎて、メロすぎて、思考が溶けそうだ。
まさに、想像以上のご褒美。
……というか、ここはギリギリ外なわけだけど……まぁでも、マンションの外からはほとんど見えないし……いっか。
などと、キスをされながら考えている時だった。
不意に、すぐ近くで何かが落ちる音がした。
慌てて唇を離し、二人同時に音のした方向へと顔を向ける。
通路に落ちた物は……スマホ?
しかも、バキバキに割れている。
って、これ……見覚えがありすぎるような?
視線を上に向けると、そこに立っていたのは………
「ね、ね……ねぇちゃん?」
「へ……悠斗?」
先ほど別れたばかりの、悠斗くんだった。




