ヘイ・ブラザー!(2)
「夕璃さんは、大学生ですか?」
悠斗くん、でかいなぁ。
でもこれ……ちょっと矢代さん思い出しちゃうな。
同じくらいの高さだ。
「夕璃さん?」
「あぁ、ごめん。違うよ、社会人」
「あ、そうなんですね。てっきりボクと同じかと……失礼しました!」
「いやいや〜、いいのいいの〜」
だらしなく頬を緩ませながら、手をパタパタとふる。
まだまだマユさんのような、大人の女性には見えないらしい。
でも女子大生に間違えられるのは、悪くない気分だ。
「悠斗くんは学生さん?」
「はい、大学三年です!」
元気だなぁ。
理由もなく可愛く感じてしまうのは、何故なんだぜ。
「そのメモのマンション、初めて行くの?」
「あ、はい。住んでいるところの、最寄りの駅は知ってたんですけど……」
話しながら、キョロキョロと辺りを見回す。
まさに「初めて来た土地」って感じだ。
「夕璃さんは、この辺の人なんですか?」
「あ〜違うよ。私の恋人が、この辺に住んでるの」
「えっ、もしかして向かってる途中でしたっ!? すみません! ぼくっ、道を教えてもらえれば自分で行きますんで!」
「あぁ〜大丈夫、大丈夫〜。だって、ほら……」
私が、目の前にあるマンションを指差す。
「ここ、悠斗くんの目的地……で、私の恋人のマンションも、ここなの」
「え……えぇーっ!」
おぉ〜おぉ〜、派手なリアクション、ご馳走様です。
そうなのだ。
私が、わざわざここまでしたのは、単に目的地が一緒だっただけなのだ。
「ここ、暗証番号式のオートロックだけど、番号とか大丈夫? わからなければインターホン鳴らして、部屋の人に直接開錠してもらうしかないけど」
「あ、はい。番号は聞いてあります!」
悠斗くんが、慌ててメモを取り出す。
そういえばさっき見せてもたった住所のメモ、凄く達筆だったけど、悠斗くんが書いたのだろうか。
とても大学生が書いたと思えない大人の文字だったけど、もしかしたらお相手さんかな。
年上の人か何かかな……と、いらぬ邪推が始まってしまう。
「じゃあ〜私、お先に行くね〜」
「あ、はい! ありがとうございました!」
悠斗くんが勢いよく頭を下げると、またしてもポケットからスマホが飛び出し、ジャリジャリと音を立てながら地面を滑っていった。
「わぁぁぁ!」
慌てて、スマホを追いかける悠斗くん。
もう既にご臨終しているのだからいいだろうに、それでも大声を上げる悠斗くんを見て、可愛いなぁと私は思ってしまうのだ。




