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【完結済】あなたが、ユリを望むなら。  作者: Ni:
あなたが、ユリを望むなら。1

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10/101

ラヴィ!

「んんーおいしー。この瞬間に、一週間にわたる労働からの解放を実感できるのよねー」

「昨日の仕事終わりじゃなく、今日のクロワッサンがですか?」

「私の休日の朝は、いつもここからスタートなの。さぁって、なぁにしよっかなー♪」


 そしてまた鼻歌を歌いながら、スマホを操作し始める。

 曲はさっきと同じで、新進気鋭のボカロP『ブルームーン』が作った『ラヴィ・ラヴィット』だ。

 私の大好きな『 雷火(ライカ)』さんの、歌い手デビュー曲でもある。

 この曲は一般的にそこまで有名じゃないけれど、とてもいい曲だと思う。


「ラヴィ〜♪ ラヴィ〜♪ あぁ、あなたが望むならあぁ〜ラヴィ〜♪」


 めっちゃ普通に、サビを歌っちゃってる。

 鼻歌でサビだけ歌っちゃうやつ、あるある。

 私もよくある。

 というか、やっぱりうまい。

 歌い声も似てるなぁ。

 泣きのところとか、ガナリの入れ方とか。


「がっ!」


 突如、歌が止む。

 声に出して歌っていたことに、気づいたらしい。


「ぎゃぁぁ……聞いてた?」

「そりゃまぁ、目の前でこんだけ歌われたら」

「ひぃぃぃ、忘れろ、すぐに忘れて!」

「キスとセットで、忘れませんけど?」

「やめぇろぅぅ」

「それ、どちらかと言えば、いきなりキスされた私のセリフなんですけど?」


 悶絶しながら、頭を掻きむしるマユさん。

 いやだから、私のグルングルンした気持ちの方をフォローしてほしい。


「いいですか、マユさん。いえ、マユ先輩」

「なによ。先輩とか言われたら、仕事を思い出すから嫌なんだけど」

「あのですね、私と先輩が出会ったのは二日前で、私は先輩の家に二連泊してるんです」

「うん? そうだね」

「二日とも記憶がなく、朝起きたら裸だったんです」

「うん、そうだね」

「しかもさっき、キスされました」

「うん、したね」


 なぜ、不思議そうに私を見ているのだ、この人は。

 あまりに真っ直ぐすぎて、こっちが目をそらしてしまう。


「つまりマユさんは、そういう、その……」

「いや、私……前にも言ったけど彼氏いるし。いちおーだけど」

「じゃあ、なんであんなことするんですか!」

「あぁ〜私、女同士でもキスくらいはできるよ?」

「ますます、意味が分かんないし。あと、いまだに寝ている間の説明がないし」


 今度は私が頭を抱えこむ。

 本当に何をしてしまったのか、それだけでも知りたい。


「あぁ〜でも、会って二日だけど、ユリちゃんのこと……私、好きよ?」

「まーたしれっと、そういうこと言うし」

「こういうのは直感だからねぇ、私はぁ。気に入ったしぃ取られたくないからぁ、マーキングしたの」

「取られるも何も、二日前からフリーになりましたけどね!」

「じゃあ、問題ないじゃん?」

「大いにあります。私はそういうの、ないんで!」

「そういうのって?」


 私はそこで、うぐっと言葉を飲み込んだ。

 また、あの目だ。

 悪戯っぽく揶揄う、悪魔の泣きぼくろ。

 でも、どうしてだろう。

 この時の私は、不思議と彼にフラれた事とか、どうでもよくなっていた。

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