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ブックシェルフ

つまりはキュートアグレッション

トロピカル因習アイランド 

要は瓶詰地獄とアローラらしいのでそういうの サンムーンはやってないけど


その島には、若者の力試しとして神に挑む儀式があった。挑むのであればそれは生死を掛けたものになり、敗れればその命を神に差し出すことになる。そもそも島を加護する神なのであるから、本当に神殺しが成されてしまったら困るが、神が人間なんぞにそう易々と殺せるはずもないので割とやりたい放題だった。南国らしく、人も神も大らかなので、若者が自力で調達してきたものであれば何を使おうとも許す。異国の武器は当然のことながら、最近では所謂大量殺戮兵器と呼ばれるものまで持ち出してくるものもいる始末だった。

試練に挑むにあたってレギュレーションは若者であるということだけ。一応下限として12歳未満はよろしくないということになっていたし、上は40まで記録がある。それ以上は本人がもう自分も若者ではないなーという自己判断で止めているので、正直なところ上限年齢はわからなかった。もう何百年もこの島で島民たちを見守ってきた神様であるから、どんな年でも子供みたいなものかもしれない。老境に入った者に試練を突破できるかはともかく。

島民でなくとも試練に参加することはできる。正直なところ、試練に打ち勝ったところで、島に一時滞在しているだけの客人にはあまりメリットはない。流石に支配領域の外では神の加護も子供のおまじない程度の効果にしかならないのだ。しかし何故か試練を受けたがる観光客は毎年いて、自己責任の名のもとに命を落としている。愚かというのは容易いが、彼らにも言い分はあるだろう。そもそも島民だって加護の為だけに試練に挑んでいるわけではない。単純に自分の実力を示したいとか、試練の後の酒宴が目当てだとか、神さまが大好きだとか、まあ色々ある。

島には三柱の神がいる。山の神、森の神、海の神である。彼らの加護がなければ、人はとても身一つで自然の中で生き残ることはできない。まあ加護があっても死ぬ時は死ぬが、加護があれば幾分助かる可能性があるのである。それと共に、加護があるということは、神の支配域から糧を得る許可を得ているということでもあった。だから島で一次産業に従事するためには試練を乗り越えている必要があった。試練を乗り越えねば自立した大人として生きることができないのである。

三柱の神はそれぞれに好みも気性も考え方も異なっているが、島の気候の影響なのか総じて大らかで大雑把で大酒飲みである。酒宴の席で酔った神にひょいと人の身にされ吐瀉物と共に吐き出されたり、そのまま食われてしまったりということも時々あった。島民たちも大酒を飲んで醜態をさらすことはそう珍しくないのでまあそういう事もあるだろうという反応である。あと食われる方も悪い。

神と言葉を交わすことはラジオをチューニングすることに似ている。周波数さえ合わせられれば誰の耳にも聞こえるし、会わなければ聞こえない。合いにくい人間、合いやすい人間というのもある。理由はわからないが、それこそため口で話せるぐらいに判ってしまう者もいるし、単語すら聞き取れない者もいる。相性というものだろう。ちなみに試練の成功率とは相関しない。試練が知識とフィジカルが必要なものなので。

島の大人は概ねいずれかの試練を突破し生き残ったものであるので、皆優れて強靭な肉体の持ち主である。でなければ生き残れないので。生き残ったものが交わり子が生まれるので、島民は強い者になっていくというわけだ。弱き者を虐げるような文化があるわけではない。他の島民に庇護されることを良しとすれば試練を乗り越えずとも生活してはいける。まあつまりはそういう事である。伝統的に島民は自立心が旺盛なのだ。

この島の神は動物で例えるならカメとジャガーとカモメである。故に人間の肉も食べようと思えば食べられるが別に主食というわけではない。捧げられれば別に何でも食べるのでフルーツでも構わない。儀式で命を落としたものを食らうのは神にとって一種の弔いの行為である。力及ばずとも神に挑んだ勇気を讃え、次はもっと強い命として生まれるよう祝福しているのである。神の血肉となるという善行でカルマポイントを積むのだ。だから島民は普通に死んだ島民も神の領域に流してその血肉になることを願う。なお全ての死体を神が食べているわけではない。

島はそうやって昔から回ってきた。回って来ていた、のだが。

此度の儀式、山の神に挑んだ客人が神に小型核爆弾を丸呑みにさせ腹の中で爆発させ、山の神が体内から弾け飛んだ。それで神が死んだかは不明だが、数泊遅れて島の中心にある火山が爆発し、周囲に火山弾をばら撒き山自体も大きく崩れる大惨事となった。狭い島では、否そもそも突然のことで逃げることなどできうるはずもなく、島民たちの暮らす村もほぼ壊滅した。山と村の間にある森もその影響で火事起こったり山から飛んできたものでぐしゃぐしゃになっている。海にも勿論土砂の類が流れ込んでいる。山の神が無事であれ、なかれ、これまで通りとはいかないのだろう。この島の人間は大らかに逞しいので、また新しい生活を作り上げて生きていくのだろうが。

ちなみに今回山の神に自爆特攻をかました客人の兄を昨昨年に丸呑みにしたのは山の神(カメ)ではなく海の神(カモメ)である。試練を突破した女傑である彼の恋人を讃える宴の最中の出来事であった。




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