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寒さにも負けず

「うっ……ざむい」


「朝は寒いですね~」


 ルーミアとリリス。

 二人並んで歩く彼女達を突き刺すように冷たい風が吹き抜けた。

 かじかむ手を厚手の上着の袖に隠し、身体を抱きかかえるように摩るリリスにルーミアは白い息を吐きながら笑う。


「そういうルーミアさんはあまり寒くなさそうですね」


「私は耐熱耐寒性能の高い装備をしていますし、魔力親和性も高いのでちょっとだけ付与エンチャントを纏わせれば……ほらっ、この通りです」


「うわ、温い。というかそれは魔力の無駄遣いなのでは……?」


「身体が冷たいと動きが鈍るのでこれは必要経費です。そうです、そうです。この魔力消費は決して無駄ではありません」


「そんな必死に言い聞かせなくても……。まあ、確かに怪我とかに繋がったら困りますもんね」


「ふっ、怪我しても自分で治せますけどね。白魔導師なので」


「無駄にハイスペックなのがムカつきますね」


 冷えた身体で激しい動きを行うのは怪我のリスクも高まるが、そんな怪我とは無縁の存在が楽しそうに笑う。

 とはいえ、回復魔法一つ使うのにも多少なりとも魔力を必要とするため、怪我をしないことに越したことはない。

 怪我をしないことと怪我をしても治せるでは似てるようで意味が違ってくる。


「今日から本格復帰ですか?」


「んー、そうですね。活動自体は再開しますが、まだしばらくは軽く簡単そうな依頼で慣らしていきたいですね」


「慣らし?」


 新装備も手元にやってきたということでフル武装できるようになった。

 好き勝手に暴れ散らかしてまた想像もしないようなことをしでかすのだろうと一種の信頼のような確信があったリリスだったが、ルーミアのあまり乗り気ではなさそうな返事に拍子抜けした。


「前のとは魔力の通り方が違うので感覚の調整ですよ」


 装備が変わることによって発生する感覚のズレ。

 それを正しく認識し、埋めるための調整が必要だとルーミアは述べた。


「壊してしまったものとそんなに違いがあるんですか?」


「まあ、それなりに。魔力の親和性が異なるので前と同じ感覚で魔法を使うと効果が薄かったり、逆に過剰に魔力を使ってしまったりなんてこともあるので……こちらの新装備に適した用法を探るつもりです」


「へえ……そういうところはきっちりしてるんですね」


「……まるで普段はきっちりしていないみたいな言い方ですね」


「よくお分かりですね。さすがです」


「むー、なんか嬉しくないです。意地悪するリリスさんにはこうです」


「ひゃっ? ちょ、冷たっ! や、やめてください」


 ルーミアはリリスへの距離を詰め、彼女の首筋に手を当てがった。

 彼女の発動している魔法で温まっているかと思いきや冷たいままの手はこの状況下においては凶器に匹敵する。

 肌に吸い付く柔らかくしなやかな指はリリスの背中にゾクゾクと悪寒を走らせ震え上がらせた。


 上擦った声で抗議の悲鳴を上げるリリス。

 身を捩って悪戯に笑うルーミアを睨みつけながら、彼女から距離を取る。

 手をワキワキとさせて迫る少女はさながら白い悪魔だった。


「なーんて、もうやりませんよ。だからそんな逃げないでくださいよ」


「……嘘だったら許しませんよ。それと……」


「ん?」


「今のでとても身体が冷えてしまったので早く温めてください。じゃないと今日は家に入れてあげません」


「私の家なんですけどねぇ」


「何か言いました?」


「……いいえ、なーんにも。もう少し寄ってください」


 リリスは少し疑いながらもルーミアに近付く。

 ほんのりと空気から伝わってくる温かさに今度は冷たくないと信じ、暖炉に手をかざすようにルーミアに両手を向けた。


「どうですか? 温まりますか?」


「いいですね。一家に一台ほしいです」


「そう思うならちゃんと家にあげてくださいよ」


「……考えておきます」


 寒空の下、少女たちは心も体も温めながら歩く。

 再び強く冷たい風が彼女達を襲うが、二人が震え上がることはもう無かった。

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