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約束の言葉

 夜空に月が淡く輝き、うっすらと影を作り出す。

 二人並び静かに足音を奏でる帰り道に、少女達は何気ない会話を紡いでいた。


「それにしても……ルーミアさんを追い出すなんて馬鹿なことをしましたね……。私だったら絶対にそんなことしないのに」


 ルーミアの秘密を一つ知ったリリス。

 彼女の過去から今に繋がる大切な話を受けて色々と思うところはある。


 彼女の欠如した能力について。ソロを突き通す理由。共感や同情、様々な思いが心に浮かぶ。

 だが、リリスが何よりも強く感じたのは疑問。

 ルーミアという逸材を手放した冒険者パーティは一体を何を見ていたのか。過ぎたことを言っても仕方の無いことだと分かっていても、つい頭をよぎってしまう。

 そんなふとした疑問が口から零れた。その言葉を拾ったルーミアはうっすらと儚げな笑みを浮かべる。


「そう言って貰えるのは嬉しいです。でも、原因が私にあるので仕方ないんですよ」


 結局のところリリスは知らないのである。

 ルーミアが純粋な白魔導師としてやっていく上で、欠落した能力がどれほど致命的か。実際に組んで戦場に立つことのない一冒険者と一ギルド職員の関係では分からない。ましてや定石のスタイルを捨て去った彼女の著しい活躍を間近で見てきた彼女ならば尚更。


「後衛から支援ができないってのは本当に致命的です。支援魔法も効果を発揮できる時間は有限ですし、効果が切れたら当然かけ直す必要もある訳なんですが……」


「それができない……ってことですか」


「まぁ、どう考えても隙ですよね。私が触れに行くか、味方に触れられに来てもらうか……どちらにしても戦闘中にそんなことしている余裕はないです」


 ルーミアの支援は継続性に乏しい時限式なもの。

 回復魔法も欲しいと思った時に即座にかけてもらえるわけではなく、ルーミアに接触するという条件を満たさなければいけない。


 はたしてそんなことをしている余裕が戦闘中にあるのか。

 あったとしてもそれは明確な隙となるし、なければバフが切れ回復もない状態で戦わないといけない。

 それほどまでにルーミアの抱える欠陥はパーティ連携において致命的なものだった。


「後衛から支援できない後衛職に価値なんてない。それは私も納得しています」


 かつてのルーミアは名ばかりの後衛職だった。

 後ろにいるだけでは役割を遂行できない。開幕で支援魔法を使った後は置物同然の場面もしばしば。そんな後衛職に居場所がないのは必然だったとルーミア自身も納得している。


「今ならどうなんですか? 今のルーミアさんはほぼ前衛職みたいなものですし、別にお仲間がいてもいいんじゃないんですか?」


「……もし組むならリリスさんと組みたいです」


「……ふふ、それも面白いかもしれないですね」


「えっ! ホントですか?」


「まあ、私は戦闘なんてからっきしなのでルーミアさんと組むのは現実的に不可能だとは思いますが」


「ええ〜、そんなこと言わずに。私と一緒に暴力頑張りましょ?」


「あの、ルーミアさんの非常識で暴力的な戦闘スタイルを強要するのは勘弁願いたいです……」


 冗談のつもりで言ったパーティ結成のお誘いに思いのほか前向きな返答が来て目を輝かせるルーミア。

 だが、リリスとて本気で言っている訳ではない。

 それでも、真に受けたルーミアはとても嬉しそうで、リリスを見つめる瞳はキラキラとしたものになっている。


「えー、いいじゃないですか〜」


「よくないです! ちょっ、もう家に着いたので引っ付かないでください!」


 そんな問答をしている内にいつの間にか新居へと到着していた。

 リリスは何かと距離感が近いルーミアを引き剥がして玄関前に立つ。


「入らないんですか?」


「リリスさん先いいですよ」


「? 変なの」


 一向に扉を開ける様子のないルーミアに不思議に思い尋ねるも、先に入るように促されたリリス。

 何をしたいのか分からないが、いつまでも家の前で突っ立っている訳にもいかず、先に新居へと足を踏み入れたリリスへとルーミアはとある言葉を投げかける。


「ただいまです!」


「……もしかしてそれを言いたかったんですか?」


「はい! おかえりって言ってもらう約束なので!」


 元はと言えばちゃんと生きて帰ってくるようにという意味で交わした約束。

 それを帰宅時にも適応し、無邪気な笑顔で約束の言葉を求めるルーミア。リリスは一瞬驚いたように目を丸くしたが、ルーミアの意図を理解して口元を緩めた。


「そうですね、約束しましたもんね。ルーミアさん、おかえりなさい」


「ただいまです!」


 このやり取りのためだけに帰宅を一瞬遅らせた家主の可愛らしい行動に、リリスは笑みを零す。

 約束の言葉を受け、ルーミアは満足そうに帰宅するのだった。

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