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仰せのままに、お姫様

「次の角を右に曲がって下さい」


「右ですね」


「あと、もう少し揺れを抑えてください」


「……頑張ります」


「それと、安全運転のままもう少しスピード上げられます?」


「…………注文が多いですね」


 リリスはルーミアの腕に収まったまま地図に目を落とし、彼女を導いていく。

 少女が少女を抱えて駆ける姿も傍から見れば目を引くものである。

 初めは人目に触れないような道を選んでいたリリスだったが、完全に人目を避けることは難しい。

 諦めたリリスは開き直り、人目を避けるのではなく、いかに早く人目から外れられるかという方向に方針を変え、ルーミアを動かす。


 安定と加速。

 どちらかだけでも難しい状況下で両立を求められルーミアは苦笑いを浮かべた。

 だが、この件に関してはルーミアはまだろくな働きをしていない。リリスの頭脳労働に対してルーミアは肉体労働で応えなければならない。

そのため、下されるオーダーが無茶ぶりでもお姫様の要望は遂行する必要がある。


「ちょっと早くします。しっかり掴まってくださいよ」


 ルーミアはリリスの背中に回した腕にほんの少しだけ力を込めた。

 フワリと包み込むよう繊細に、それでいて力強く、大切なものを守るように。

 密着する少女の温もりと鼓動を感じながら進む。


「あ、今のところ左でした」


「過ぎた後に言わないでください。まぁ、いいですけど」


「ひゃっ、急に跳ぶのはびっくりするので事前に申告してください」


「考えておきます」


 ナビが遅れ道を間違えたことを告げられるとルーミアは方向転換し、大きく跳ねた。

 少女一人抱えていてもその機動力は遺憾無く発揮されており、建物一つ飛び越えるくらいならば造作もない。


 ルーミアにとって道無き道を行くことはもはや当たり前の事。強引に建物を飛び越えて本来のルートへと戻る。

 操縦を誤ると何が起きるか分からない事を改めて認識したリリスはジトリと目を細めた。

 そんな抗議の視線も受け流してルーミアは軽快に跳ねる。

 リリスを抱えての機動にも慣れ始めたところだ。


「あ、そこ跳び超えます。事前申告したのでいいですよね?」


「……もう好きにしてください」


 抱える側と抱えられる側。

 指示を送るのはリリスだが、主導権はルーミアにある。

 制御できないルーミアにリリスは諦めを覚え、彼女に身体を預け小さくため息をこぼした。





 ◇




 記念すべき第一件目。

 到着してリリスを下ろし、ルーミアは首を回す。


 中を軽く確認して、設けた基準を越えるか越えられないか。

 そんな審査が行われる――――はずだったが、リリスは何度も手元の書類と建物の間で視線を行き来させ、ついに首を横に振った。


「ダメですね、次に行きましょう」


「え、中見なくていいんですか?」


 その家に一歩でも踏み込むことなくリリスは地図にバツ印を書き込んだ。

 内見というからには家にあがり、部屋の間取りや雰囲気などを確かめるものだと思っていたルーミアは、リリスの下した早すぎる判断に驚愕した。


「いいんです。家の外観が好みじゃありません」


「え……それだけですか?」


 述べられた理由は至ってシンプル。

 だが、こだわりのポイントが異なるため、ルーミアは怪訝そうな表情を浮かべた。


「それだけ、と言いますけど見た目というのは意外とバカにできないんですよ」


「えぇ……でも大事なのは中なんじゃないんですか?」


「ルーミアさんは分かってませんね。じゃあ、そうですね……ルーミアさんの装備の話に置き換えてみましょう」


「装備、ですか?」


「はい。ルーミアさんが普段身に付けているお気に入りの装備。それが機能的には変わらないですが、見た目的に気に食わないものになったらどうですか?」


 リリスはルーミアに納得させるために、彼女にとって身近で分かりやすいものに例えて話を置き換えた。

 ルーミアは言われた通りに想像した。

 装備品がお気に入りのものではなくなった自分を思い浮かべ、ルーミアはリリスの言わんとしていることを理解した。


「なるほど……確かに嫌ですね。愛着が湧いているからか余計に変な感じがしました」


「分かってくれましたか。確かに中も大事ですが、住むということは帰る場所になる、帰る場所になるということは嫌でも目に入るということです」


「それは……妥協できませんね」


 別に住めれば何でもいいと思っていたルーミアだが、リリスの例え話を想像して考えを改める。

 何かが違う。微妙に納得がいかない。

 そんな些細な違和感があっていけない。


 サラッと軽い流れで家の購入に踏み切ったルーミアだが、それが大きな買い物であることに変わりは無い。

 後から気に食わないといった理由で買い換えるということも難しいため、やはり妥協はするべきではないと思わされた。


「私は気にしませんが、リリスさんの納得がいかないのならそれは違います。二人で納得できるのが一番ですからね」


「……すみませんが私のわがままにとことん付き合ってもらいますよ」


「ふふっ。仰せのままに、お姫様」


 悪戯にそう口ずさんで、ルーミアはリリスを抱き直す。

 一切の妥協も許さない。

 二人の拠点探しはまだまだ始まったばかりだった。

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