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何より嬉しいご褒美

 その後、ルーミアは満足するまで金剛亀を殴り、蹴り、どつきまわし、しばいた。

 素材集めは順調。その点に関してはホクホク顔のルーミアだったが、一方で身体強化ブーストの方は思うような結果は得られずにいた。


 有り体に言ってしまえば強化が馴染んでいない。

 強化された感覚に頭ではついていけても身体が追い付かない。

 一歩歩くと地面を踏み砕く、力加減を間違えて人間砲弾といった大事故は起きていないが、動きづらく自分の身体ではないような嫌な感覚がまだ残っている。


「浮かない顔ですね。まさかあんなに余裕ぶっていたのに、依頼……失敗しちゃったんですか?」


「まさか。そっちは余裕ですよ」


 不満げというにはやや語弊があるが、どこか納得のいってない表情でギルドへと戻ってきたルーミア。

 それを出迎えたリリスは茶々を入れる。

 普段に比べると遅い戻りに、まさかルーミアともあろうものが依頼を失敗したのか、なんてことは微塵も思っていない。

 唯一依頼を失敗する可能性があるとすれば、討伐対象を捕捉することができなかったときくらいだろう。戦闘能力的には何ら問題ない。リリスにとってそれは当たり前のことだった。


「じゃあ、そっちが上手くいかなかったんですね」


「ええ、そっちが。まあ、ここまでくると魔力消費も馬鹿にならなくて、慣らすのにも一苦労ですよ……」


 となるとリリスが把握しているルーミアの目的はもう一つ。

 そちらが上手くいかなかったのだろうと簡単に察しは付いた。


 ルーミアは思い通りに事が進まずやきもきさせていた。

 重ね掛けの数が少ない強化は魔力消費が抑えられていて、繰り返し調整に魔力を費やすことができたが、強化段階を引き上げるほど当然魔力消費量も多くなり、必然的に連続で訓練を行うことはできなくなる。


 これまでのような魔力量とセンスにものを言わせた強引な慣らしでは完全に適応できない。

 とはいっても魔力の都合上できることにも制限が設けられてしまっている。

 魔法を主体として戦う者に魔力量の限界という枷はつきものだろう。


「さすがに魔力結晶割ってまで慣らそうとは思いませんし……」


「魔力ポーションがあるじゃないですか?」


「残念ながらあれは人が飲む飲み物じゃありません」


「魔導師必需品の完全否定ですか。可及的速やかに謝った方がよろしいかと」


「謝りません。もっとおいしくなってから出直してきてください」


 早く慣らすためには何度も使って身体で覚える派のルーミア。

 だが、わざわざ魔力結晶を使ってまで過度な制御訓練を行おうとは思わない。

 さらには魔力ポーションなど論外。飲まないと決めてから結局何度か喉を通すことになっているので、ルーミアの魔力ポーション嫌いは悪化している。


「……分かりましたからそんな怖い顔しないでください」


「……分かってくれたならいいんです。しかし、どうしましょうか」


「地道に気長にやっていくしかないんじゃないですか? 大丈夫ですよ。そんなに焦らなくても今のルーミアさんでも十分強いですし、依頼にも困らないじゃないですか」


「それもそうですね。ありがとうございます、気が楽になりました」


 身体強化の段階を引き上げることはルーミアにとって進化だ。

 だが、その進化はなければならない成長ではない。


 今現在の強化段階と使える魔法の組み合わせ、その技でも十分戦えるだけのポテンシャルがある。

 だから焦って強さを追い求める必要はない。

 リリスにそう指摘され、ルーミアは心が少し軽くなるのを感じた。


「……ルーミアさんにはたくさん依頼をこなしてもらわないといけないので、あまりそちらの方に気を取られて、魔力を使われるのは困るんですよ」


「どうしてリリスさんが困るんですか?」


「同居の提案、受けることにしました。私はそこそこ広い家に住みたいので、しっかりお金を稼いでくださいね」


「……えっ、マジですか?」


「はい、マジです」


「やったー!! あとで一緒にお家見に行きましょうね!!」


「分かりましたから騒ぐな」


 リリスから告げられた言葉。

 すなわち、保留にされていた同居のお誘いの返答。

 是の返事をもらったルーミアは歓喜した。

 上手くいかないこともありやや落ち込んでいたルーミアだったが、その言葉は今日一番、何よりも嬉しいご褒美のようなものだった。

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