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片手間の制御テスト

 金剛亀討伐。

 実力の高い冒険者であってもその防御力の前に泣きを見る、俗にいう外れに分類される依頼。

 その堅牢な甲羅を貫かなければ討伐はならず、仮にその甲羅を攻略するだけの能力を持ち得たとしても討伐にかかる労力や手間は甚大なためどうしても敬遠されがちになってしまう。

 そんな依頼を嬉々して受ける白の少女は頭の後ろで両手を組み、だらだらと歩きながら対象を探していた。


「こんな依頼がAにあるなんて最高ですね。おかげで楽に稼げます」


 基本的に依頼の達成報酬はその難易度に比例して高くなる。

 つまり、ランクが高くなればなるほど実りのいい依頼を受けることができるという訳だ。

 だが、依頼に難易度が上がればそれに応じて危険度なども増す。ハイリスクハイリターンの原則はここにも健在で、大きく稼ごうと思ったら時には危ない橋を渡る必要もある。


 しかし、ルーミアにとってこれは甲羅をぶち割るだけの単純作業。

 そこに危ない橋など存在せず、安全な平地を容赦なく踏み抜いていくだけの簡単なお仕事である。


「とりあえず六、七くらいでヒビが入るのは分かっているので攻略は楽ですが……叩き割る部位には少しだけ気を配りたいですね」


 ルーミアは顎に手を当てて思案する。

 彼女がそのように考える理由、そこにはルーミアがこの依頼を手にしたもう一つの訳が隠されていた。


 ルーミアが金剛亀討伐の依頼を再び行おうと思った理由は大きく分けて三つ。

 まず、第一に簡単だから。そして、簡単であるため魔法制御のテストにもってこいだったから。

 加えて三つ目、金剛亀の甲羅を素材として欲しかったからだ。


「あの硬さを活かしたガントレットが欲しいですね……! そしたら私のルーミアちゃん流暴力術もさらなる高みへ……!」


 Aランクの魔物を素材として装備の改造、もしくは新調を考えていたルーミア。

 硬さは破壊力に直結する重要な項目。それを満たしに満たした豪華素材をふんだんに使用した装備。その望みを叶えるために、この依頼はまさしく天からの贈り物だった。


 そのため、素材として残すために甲羅をあまり破壊したくない。

 どのみち叩き割る必要はあるのだが、無意味に砕いて素材部分を減らすのは好ましくないため、攻撃を加える場所は一点集中したいのだが、それをどうやって行うかという難点が残る。


「まあ、最悪数狩って素材集めですね。優先事項は身体強化ブーストですので、そこは割り切りましょう」


 あくまでもそれは可能ならばという話。

 素材を残す方に気を取られて身体強化ブーストの制御が疎かになったり、最大出力を抑えないといけないことになったりする方が結果としては望ましくない。


 ひとまず、細かいことはさて置いて、全力で討伐に専念することに決めたルーミアは、だらりと脱力した状態から背筋をシャキッと伸ばし、索敵モードへ移行する。

 軽やかなステップで木の上に飛び乗ると、素早く移動していく。


「おっ、いましたいました。じゃあ、まずは……身体強化ブースト七重セプタッ!」


 ルーミアはその瞳に金剛亀を捉えた。

 すかさず身体強化ブーストを発動。乗っていた太い木の幹に足をかけ、大きく膝を曲げる。その反動の勢いで幹をへし折りながら、ルーミアは獲物へと飛び掛かった。


「やっぱかったいですね~。ですが……身体強化ブースト――――八重オクタ


 甲羅に組み付いたまま拳を振りかざす。

 さらに強化段階を引き上げて、先程殴りつけた箇所に狙いを付けて追撃を突き刺す。

 だが、まだ壊れない。


「もういっちょ……うわっ、ちょ……大人しくしといてよね」


 さらにもう一撃。

 ルーミアが肘を曲げて引き絞った時、足をかけていた甲羅が大きく揺れた。

 宙に投げ出されたルーミアは唇を尖らせて悪態をつきながらも、空中で身を翻してしっかり着地した。


 着地の際に膝を曲げ、踏み込みまでの過程を短縮、そのままの再度飛び掛かり、ブーツの爪先を突き立てる。

 そのまま再度組み付いて、右手で、左手で、何度もガツガツと殴りつける。


 甲羅に乗られていては反撃も何もできない金剛亀はルーミアを振り落とそうと再度その巨体を大きく揺らした。

 しかし、金剛亀の挙動からその予兆を感じ取ったルーミアは直前で離脱。空中に跳び出て、回転しながら遠心力の力を蓄えていた。


身体強化ブースト――――――――九重ノーナッ」


 落下の重力、回転の遠心力、そして解禁された最高出力。

 すべてを乗せた渾身の踵落としは最強の矛となり、堅牢の要塞へと突き刺さる。


 だが、拮抗はしない。

 剣と盾がぶつかり合ったような甲高い音が響いたそのつかの間、その甲羅は一気にひび割れて、いともたやすく貫かれた。


「……なるほどなるほど。八重オクタから九重ノーナで壊れてしまうんですねー」


 舞い上がる土煙の中、白い少女の影が揺らめいた。

 確殺を入れた手応えを感じ、警戒することもなく分析をしながら、ルーミアは素材と成り果てた甲羅をコンコンと叩く。


「ヒビ無し状態から一気に貫けるのは楽でいいですが……まだ無駄が多いですね。八重オクタ九重ノーナもまだ動きがぎこちないですし、魔力消費もまだ抑えられますので要改善です……」


 軽々と討伐の結果をもぎ取った華麗な一撃にも思えたが、それを繰り出した少女はまだ納得がいっておらずどこか浮かない表情を浮かべている。

 派手に吹き飛ばして散り散りに飛んでしまった素材の残骸を拾い集めながら、ルーミアは反省点と今後の課題を脳内でまとめていた。


「とりあえず……もう二、三匹しばいてから帰りましょうか。次はもう少しうまくやれる気がします……! いえ、私ならやれます。できるまでやればできるんです……!」


 実験を行う余力はまだ残されている。

 何より、呆気なく終わってしまうこの討伐に、ルーミア自身暴れ足りないと感じていた。

 素材の回収を終えたルーミアは、次なる犠牲者を求めて元気よく旅立つのだった。

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