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同居のお誘い

「そういえばギルドの職員寮ってどんな感じですか?」


「どんな感じとはまたザックリですね。別に普通ですよ。一人で過ごす分なら特に支障はない。そんな感じの部屋です」


「ほえ~、結構広いんです?」


「普通ですよ。そういうルーミアさんは今どこに住んでいるんですか? まさか野生でサバイバルなんてしてませんよね?」


「してませんよ! ちゃんと宿取ってますって!」


 あらぬ疑いをかけられたルーミアの必死な叫びが闇夜に木霊して溶けて消えた。

 さすがのルーミアといえど毎日野営はしないし、野営が必要なほど遠くに行く事もない彼女はサバイバル生活とはほぼほぼ無縁だった。


「そうですか。では、今どちらに?」


「こっちに来た時にリリスさんが紹介してくれた宿ですよ。もうずっとそこにいて、今では月単位で予約してるくらいです」


「……それは驚きました」


 リリスはそれを聞いて驚いたと同時に、その時のことを思い出して懐かしさを感じた。

 リリスとルーミアの出会い。ユーティリスに来たばかりのルーミアが冒険者ギルドでバツの悪そうな表情で依頼掲示板とにらめっこしてるのに視野の広いリリスが気付いて声をかけたのが始まりだった。


 その後、依頼に関する相談に乗り、ユーティリスに来たばかりで住むところもないから宿を紹介してほしいというルーミアに、リリスはきちんと親身になって寄り添った。

 それほど昔のことでもないはずなのに、どこか遠い日の出来事のようにも感じられる。リリスは思い出を掘り起こして口を開いた。


「あの時のルーミアさんは節約のために少しでも安いところがいいって言ってましたね」


「あ、あの時は受けられる依頼も全然なくって、貯金を崩してる身なので節約しないとって必死だったんです」


「それが今となってはAランクソロ白魔導師ですか。何が起こるか分からないものですね」


 ルーミアがまだ至って普通の白魔導師だった時。

 一人では戦うことができず、受けられる依頼も簡単な採取系の依頼ばかりだった頃を思い出し、リリスは感慨深いものを感じた。


「ですが今のルーミアさんならもう少しいい宿を取ってもいいんじゃないですか?」


「まあ、初めのうちは私も今だけの辛抱、お金に余裕が出来たらもう少し広い部屋の宿を取ろうって思ってたのですが……長く過ごしているうちに落ち着くようになっちゃって」


「それでずるずる取り続けていると。なるほど……ルーミアさんらしいです」


 簡単なものでも依頼をこなして、金銭的余裕が生まれたらもう少しいい宿を取ろうと考えていたルーミアだったが、今もなおその宿を変わらず取り続けているのはそこを帰る場所として認識してしまっているからだろうか。

 ずっと同じ部屋を貸し切りにして使い続けているため、そう思ってしまうのも無理はない。


「ですが、その宿がしばらく使えなくなるんです」


「……ついに追い出されたんですか?」


「追い出されてませんし、ついにって何ですか! ただ、改修作業が行われるだけですよ」


「そういうことですか。ルーミアさん、部屋とか普通に壊してそうなのでついに出禁になったのかと思ってしまいました」


「うう、実際に何度か扉や壁を壊してしまっているので何も言い返せません」


 実際、リリスの指摘は的を射ているもので、大いに心当たりがあるルーミアは強く言い返せない。

 悔しそうに呻くことしかできないルーミアだが、決してそれが理由で宿を追い出されたわけではない。


「では、その改修が始まったらルーミアさんは住むところが無くなってしまうわけですね。どうするんですか? 野生に帰るんですか?」


「……野良ルーミアを拾ってくれる方がいるのならそれも考えますが……リリスさん、どうです?」


「あ、うちの寮ペット禁止なんですよ。なので飼ってあげることはできません」


「じゃあダメですね。普通に住むところを探します」


 しれっと会話を成立させているが中々に突っ込みどころの多い掛け合い。

 ペット扱いされていることにはノータッチで、ルーミアのリリスの部屋に転がり込む作戦はあえなく潰えてしまった。


「ちなみに人間のルーミアを泊めてもらうことは?」


「さすがに二人は厳しいですね。普通に宿探せばいいじゃないですか」


「うーん、それでもいいのですがいっそのこと家、買っちゃいましょうか。なんだかんだ結構貯金はありますし、豪邸とかを望まなければ何とかなるはずです……!」


 次の宿を探すのも一つの手だが、ルーミアが考えているもう一つの手。

 それが持ち家の購入だ。


 ルーミアはそれほど金遣いが荒いわけでもなく、依頼達成で得た報酬も使い込まずに貯蓄していることの方が多かった。毎日毎日日課のようにこなして討伐依頼で得た報酬が貯まり、よっぽどの豪邸などでない限り手が出せるくらいには余裕がある。


 そのため、これを機に宿住まいから卒業することも視野に入れていた。

 大きな買い物だが、一度買ってしまえばそれから宿の料金の支払いもなくなる。

 ルーミアはかなり前向きに検討していた。


「え、ルーミアさんのお家ですか! いいですね! 買ったらぜひ呼んでください!」


「あ、リリスさんも一緒にどうですか?」


「……? 一緒に選ぶってことですか?」


「いえ、一緒に住みませんか? なんと! 今なら三食昼寝付きでお家賃ゼロですよ!」


「冗談……ではなさそうですね」


 ルーミアはまるで散歩にでも誘うかのような軽いノリでリリスに同居のお誘いをした。

 あまりにも自然な流れで軽く言われたためてっきりからかうための冗談かと思いきや、ルーミアは至って真面目に聞いていた。


「とても魅力的な提案ですね……。少し考えさせてください」


「……そうですか。まぁ、いい返事を期待しておくとします……っと、戻ってきてしまいましたか。今度こそお別れですね」


 さすがにリリスといえど即断はできなかった。

 ルーミアは残念そうにはにかむ。

 それはリリスからいい返事をもらえなかったから。そして、違う道を通ってギルドの前へといつの間にか戻ってきていたから。


「今日はありがとうございました。また明日……ですね」


「はい、また明日。いつものところで待ってます」


「分かりました。ふふ、いつもの場所ですね」


 二人が落ち合ういつもの場所。

 きっとまた明日もカウンターを挟んで二人は対面するだろう。

 そんな来たるべき明日に早くも思いを馳せる二人だった。


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