装備を整えよう
強化倍率の制御も板につき、スムーズに身体を動かすことができるようになったルーミアは実践に移す前にあることを考えていた。
「私もある程度装備を整えたいですね。以前のは返してしまいましたし……まあ、あったとしてももう着ませんが」
ルーミアが以前まで着用していた白魔導師の力を増幅させる、いかにも聖職者ですと言わんばかりの装備はもう彼女の手元にはない。
あったとしてももうそれらを身に付けることはないと確信しているルーミアだったが、重要なのはそこではなく、現状ほぼ私服姿で活動しているという点だ。
非戦闘系の依頼をこなす分には気にならなかったかもしれないが、これからは討伐系の依頼も受けることになる。
新しい戦闘スタイルには新しい装備が必要なのは明白。
乙女の柔肌をそのまま攻撃に用いるのにはどうしても抵抗があるというのは建前で、単純にルーミアは形から入りたいタイプだった。
そのための装備品。
ルーミアは己を強化して肉弾戦を仕掛ける方向で己のスタイルを固めた。
そのため彼女が自身に必要と考えたのは剣や槍などの手に持って使う武器の類ではなく、己の拳を守りつつ攻撃力も底上げできるガントレットだ。
しかし、いかんせんマイナーな装備品だ。
手を守るための籠手とは違うため、一般の武器屋で販売しているかも分からない。
「せっかくだしオーダーメイドしてもらいたいなぁ」
これに関してもルーミアは自身が思い描く最良があり、それを実現するためにはオーダーメイドで作成してもらうのが良いと考えている。
だが、ルーミアはパーティを追放されてこのユーティリスにやってきているため、知っている店も職人さんもいない。
こういう困ったときに助けてくれるのも冒険者ギルドという組織だ。
ルーミアはギルドに誰かいい店や人を知っている人がいないか尋ねに行くのだった。
◇
「……という訳で私専用のガントレットを作れる人を探しています。あとブーツも……。心当たりはありますか?」
「はあ、また奇妙なことを……。ルーミアさん、本当に白魔導師なんですか?」
「白魔導師ですよ。それに白魔導師としての力を活かすために必要なんです」
「言ってもらえれば白魔導師を募集しているパーティを紹介することもできますが…………うわ、凄い嫌そうな顔。その様子だと余計なお世話のようですね」
ルーミアは以前熊の買取をしてもらったギルド受付嬢リリスに相談をするが、その相談内容が白魔導師らしからぬもので、リリスも苦笑いを浮かべている。
ギルドの仕事としてパーティ募集の紹介や斡旋などもあるため、さりげなくルーミアに勧めてみるリリスだったが、ルーミアの死ぬほど嫌そうな顔を見てその提案を取り下げる。
「今までも白魔導師の方は何度も見てきましたが、パーティを組みたがらない白魔導師はルーミアさんが初めてです」
「そうですか。リリスさんの初めてになれて嬉しいです」
「……言っておきますが、褒めてないですからね。っと、相談内容に関してですがどちらも心当たりはあります」
「本当ですか? どこですか? 誰ですか?」
「ガントレットは町のはずれにある小さな鍛冶屋さんで作ってもらえるはずです。ブーツはこのギルドからそれほど遠くない靴屋さんで作成自体は可能でしょうね。ただ、どちらも通常販売しているものとは異なりますので、時間がかかったり、材料費がかかったりするかもしれませんので、そこらへんは先方とルーミアさんが相談してください」
そう言ってリリスは手元にある手頃な紙に町の大雑把な地図を書き上げてルーミアに手渡す。
「こちらを見ればたどり着けるはずです。もしたどり着けなかった場合はもう一度聞きに来てください」
「ありがとうございます! さっそく行ってきますね!」
ルーミアはお礼を言ってギルドを飛び出した。
リリスのメモを片手に、強化が施された身体を存分に駆使して、ものすごい速さで駆けていくのだった。