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いっぱい食べよう

「ここです。ささ、入ってください」


「お邪魔しまーす」


 キリカの案内でやってきた定食屋。

 扉にはまだ開店していないことを示す札がかけられているが、キリカはルーミアを中に通す。


「あら、いらっしゃい。まだ開店前だけど……キリカのお友達かしら?」


「え、あの……」


 先に入ったルーミアを出迎えたのはエプロンをしてテーブルの拭き作業をしている女性。

 ルーミアが反応に困り固まっていると後ろからキリカが助け舟を出してくれた。


「お母さん、この人が私とユウを助けてくれた冒険者のルーミアさんだよ。まだ開店前だけどいいよね?」


「あら、この子が? もちろんいいわよ。ちょっとお父さん呼んでくるから好きなところに座っててもらって」


「はーい」


 キリカが軽くルーミアの紹介をする。

 やってきたのが娘を助けてくれた恩人なのだと分かると慌ただしく奥へと早歩きで消えた。

 キリカは慣れた様子でルーミアを席に案内し、冷たいお茶の入ったグラスを持って向かいに座った。


「お母さん、優しそうな人ですね」


「そうですか? たまに怒ると恐いですが……まあそうですね」


「お仕事の途中みたいですけど……本当によかったんですか?」


「はい、開店の準備は多分終わってますし、お父さんの方……厨房の仕込みなんかもこの時間ならほとんど終わってます」


「……その割には厨房の方からガチャガチャ慌ただしい音が聞こえてきますが……大丈夫です?」


「大丈夫です。気のせいです」


 キリカの母が厨房に向かい、キリカの父らしき者の声が聞こえたと思ったら何か金属製の物を床に転がしたような音や、何か液体が飛び散っているかのような音が鳴り止まない。

 心配になったルーミアだったが、キリカの達観した表情に黙り込む。

 しばらくして少しエプロンを着崩し息を荒くしたキリカの母と父と思われる男性がやってきた。


「初めまして、キリカとユウの父です! この度は娘と息子を助けて頂き本当にありがとうございます!」


「私からも、本当にありがとうございます!」


「あの、頭を上げてください。二人とも無事でよかったです」


 大人二人に詰め寄られ頭を下げられるのにはさすがのルーミアも抵抗があったのかすぐに頭を上げるように告げる。

 やはりお礼をする側と受け取る側では認識が異なるのだろう。ルーミアとしてももう十分お礼はもらっている。だが、キリカ達救われた側からすればまだまだ足りないのだ。


「今日はルーミアさんに食べて行ってもらうけどいいよね?」


「もちろん、好きなのを好きなだけ食べてください。お代はいただきませんので」


「え、それは悪いですよ」


「いいんですよ、ルーミアさん。お父さんもこう言っているし好きに飲み食いしてください。これくらいでしかお返しできないので」


「……分かりました。いただきます……でもさっきなんかすごい音してましたが大丈夫ですか?」


「げっ、さっき仕込み中の鍋ひっくり返しちまったんだ。申し訳ありませんが挨拶はこのくらいで戻らせてもらいます。どうぞ、ゆっくりしていってください!」


「私も手伝うわ。キリカは今日のお手伝いはいいから、ルーミアさんの相手をしてあげて」


 そう言って二人は厨房に戻っていった。

 お礼を言われ続けるような展開にならずルーミアはほっと胸を撫で下ろした。


「キリカさんはここのお手伝いをされてるんですね。このお茶出しも手慣れてました」


「いつもって訳じゃないですが忙しそうな時はたまにです」


「お店のお手伝いなんて偉いですねー。ということは料理のお手伝いもされるんですか?」


「厨房の方はよっぽど手が回ってないときは手伝いますよ。お父さんの作る料理にはまだまだ追いつけませんが、いつか本格的に厨房を任せてもらえるようになります。その時はぜひ、ルーミアさんにも食べてもらいたいです」


「それは楽しみですね。その日を待ってますよ」


 手伝いで厨房に入ることもあるキリカだったが、あくまでも手伝いの域を出ず本格的な調理はすべて父が担当している。だが、キリカはいつか必ず自分がメイン調理を担うと意気込んでいる。その時が来たら自分の手で料理を振る舞いたいという純粋な熱意に胸を打たれたルーミアは、キリカの目標が達成されることを願った。


「あ、いい匂いがしてきましたね」


「悔しいですがお父さんの作る料理は美味しいです。お父さんも言ってましたがルーミアさんも遠慮せずに好きなだけ食べてくださいね」


「はいっ、いっぱい食べます」


「……きましたね。さ、どんどん食べてくださいね」


「え? えっ? なんかいっぱい来てますけど?」


「はい、いっぱい食べてください」


 そうしていると店前の看板が営業中を示すものへと掛け変えられ、お客さんがやってくる。

 そんな中ルーミアとキリカの座る席には次々に料理が運ばれだし、ルーミアは困惑しながら食べ始めた。

 キリカは美味しそうに料理を頬張るルーミアに優しい眼差しを向けていた。

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