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討伐完了

「あれ、倒しちゃった?」


 力加減のおぼつかない足を生まれたての子鹿のようにプルプル震わせながらルーミアは倒れ伏した熊の元へと様子を見に行った。

 一応警戒は解かずに近づいたが、相変わらず動く気配を見せない熊にルーミアは小さく呟く。近くに落ちていた木の枝を拾い上げてつんつんと触れてみても何も起こらない。


「ええ? どうしよう? なんか思ってたのと違うなぁ……」


 倒したことは喜ばしい。それは間違いない。

 だが、実感が湧かないというのがルーミアの本音だ。


 初めての力で暴走突進をかまして知らぬ間に倒していたと言われても手放しでは喜べない。

 ましてや最後の手段と称して、覚悟を決めてとった行動の結果がこれだ。

 もう少し劇的で記憶に鮮烈に刻み込まれる覚醒の瞬間――――所謂己の原点となる予感を覚えていたルーミアは思わぬ結末に拍子抜けしてしまっていた。


 それでも目の前の結果は変わらない。

 自身の意思に反した行動が引き起きしたとはいえ討伐完了の事実には変わりない。さらにはルーミアの取った手段である自身を強化して戦うという戦法がある程度は通用する証拠でもある。


「とりあえず帰って報告しよ。ちょっとは買い取り高くつくといいな」


 野生の動物でも肉が食用に使われたり、革が装備品や装飾品に使われたりとなにかしら値段が付く可能性がある。

 ルーミアは熊の足を掴みその巨体を引きずって、ゆっくりと慎重に森の出口へと歩き出した。


 ◇


 ◇


 討伐というものが絡む冒険者。

 誰かが何か戦利品を持って街に戻ってくることは珍しくない。


 だが、白髪で小柄な少女――――ルーミアの様子は一際異彩を放っていた。

 自身の身長の倍は軽くある熊を片手で掴んで引きずっている少女が目立たない訳ない。

 ルーミアは行く人々から視線を浴びせられ少し恥ずかしそうに進む。白い髪、色白な肌など白が目立つ少女だが、耳までほんのり赤く染める様子はとてもいじらしく、余計に人目を引く要因にもなっている。

 そんな好奇の瞳を何とか潜り抜け、冒険者ギルドに戻ってきたルーミアだったが、当然ながらそこでもさらに驚かれることになる。


「えっ? この熊をあなたが討伐? ルーミアさんが受けた依頼は薬草の採取じゃなかったんですか?」


 冒険者ギルドで受付嬢をしている少女――――リリスは帰還したルーミアとその手に引きずられた熊を交互に見て目をぱちくりさせた。

 依頼を受けたルーミアを送り出したのも彼女だ。

 ルーミアの冒険者としての経歴や職業、そして手に取っていった依頼を知る者からすれば驚いて当然の事だろう。


「薬草採取に夢中で森の奥まで入ってしまって……」


「なるほど、それは災難でしたね。ご無事で何よりです……」


「ほんとですよー。次からは気を付けます」


 お目当てのものを探していてもそうじゃないものしか見つからないときは往々にしてある。

 それと同様に本来ならエンカウントを避けたい存在と運悪く居合わせてしまうこともよくある事だ。


 今回に限って言えばルーミアの不注意によるものが大きいだろうが、誰にでも起こり得る不運だ。

 そんな不運を乗り切ったルーミアに怪訝そうな表情を向けたままリリスは労りの言葉をかける。


「こっちが依頼の薬草です」


「はい、確かに受け取りました」


「それで……これはどうなりますか?」


「そちらは依頼を受けていたわけではありませんし、該当する討伐依頼も現在は出ていませんので報酬は出ませんが、通常の買い取りは可能になってますよ。こちらで買い取ってしまってもよろしいですか?」


「お願いします」


「では、しばらくお待ちください」


「はーい。やった、ボーナス、ボーナス〜」


 依頼として討伐したわけではないため報酬が弾むということはないが、買取の金額がその分上乗せされるだけでルーミアは儲けものだと思っていた。

 肉は食用、革や爪なんかは武器や防具の素材としても使えるため意外と買取金額は高い。

 それに加えて薬草採取の依頼を達成したことによる報酬も合わせて受け取ったルーミアはほくほく顔で取っている宿へと帰っていった。


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