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特別試験の趣旨

「おー、意外と広いしちょっと明るい……? でも空気悪いなぁ」


 盗賊団がアジトにしている洞窟らしきものに足を踏み入れたルーミア。

 入り口はそれほど大きくなかったが奥に進んでいくにつれて広くなっている。通常なら真っ暗かと思われる場所だが、盗賊団が出入りしていることを裏付けるように、一定間隔で壁に取り付けられた魔道具らしきものが洞窟内をぼんやりと照らしている。しかし、空気があまり循環していないのかジメジメとした空気が喉に張り付く。ルーミアは顔を顰めながらコツコツと足を鳴らす。


 閉鎖的な空間というだけあって足音がよく響く。

 しかし、今のところ誰かと鉢合わせるということもなければ、向こうから誰かが近づいて来ている気配なども感じられない。


(んー? 思ったより人少ない? 奥にいるのかな?)


 次から次へと相手がやってきて手当たり次第に倒していくのを想定していたルーミアは少し拍子抜けしてつまらなさそうにぼやいた。しかし、このまま終わるなんてことはないという予感もある。


(この依頼……というか試験の目的はそうですね……。私の複数人を相手取る際の対処能力と継戦能力の確認といったところでしょうか?)


 これは特別依頼であると同時に特別昇格試験でもある。

 試験というからには何かしら能力を測る意図があるはず。そう考えたルーミアはこの試験が自身の何を測るものなのかを推測した。


 ソロの白魔導師という異例の存在。

 数々のパーティを転々とし、決まった仲間を持たないという訳ではなく、ルーミアは完全に一人だ。

 一人で大抵のことはこなせないといけない中で優先的に必要とされる能力は何かと考えた時、やはり個の力は外せない。


 ルーミアは一対一の戦いならばそれなりの強さを誇り、本人も得意としている。己の持ち得る力で相手の力を上回ればいいだけなのだからそれほど難しいことではない。


 かといって、対多数の戦いにめっぽう弱いわけでもない。

 確かにルーミアは魔法の射程距離がゼロだ。加えて白魔導師としての力を無条件で行使できる対象はルーミア自身のみ。基本的に己の肉体を武器として戦うスタイル故に範囲攻撃は存在しない。


 では、ルーミアの対多人数戦への対処の仕方はどういうものか。それは至ってシンプル。相手がいなくなるまで《《一対一を繰り返せばいい》》。ソロは数の暴力に弱いという一般論を覆すだけの暴力をルーミアは有しているのだ。


 そういう意味でも継戦能力は必須だ。

 ソロで活動するということは、窮地の際に助けてくれる仲間はいない。常に頼れるのは己の力ただ一つ。

 そんな中で体力が切れて動けない、魔力が尽きて戦えない、などというのは時として死を意味する場合もある。


「一人でBランク相当の力を示す……か。カバーしてくれる仲間はいない。いらない……っ。全部ひとりでやるんだ……!」


 仲間がいるからルーミアの白魔導師としての欠陥は浮き彫りになる。だが、一人で活動する分にはその欠陥は欠陥足りえない。パーティを組むことに対してまだ前向きな考えを持つことができないルーミアはどこか浮かない顔で自らを鼓舞した。


「ん……分かれ道かぁ。どっちに進もうかな?」


 そんなことを考えながら進んでいると分かれ道に差し掛かった。

 初の分岐に足を止めたルーミアは続く二つの道を交互に見やる。


「この先も入り組んでるのかな? 行き止まりとかで引き返すことも考えると……通ったって分かるような目印が欲しい……かな?」


 分かれ道がここだけなら、迷うことはないが、この先の道がどのようになっているかは分からない。たくさんの分岐がありどこを通ったか分からなくなる――――つまり迷子になるのはもうこりごりだったルーミアは少し悩む素振りを見せたのち、閃いた。


「とりあえずこっちでいっか」


 ひとまず右の道に進んでみることにしたルーミア。

 そのまま進むかと思われた姿は一度止まり、壁に向かって足を振り上げた。


「よし……身体強化ブースト――――――――二重ダブル


 身体強化を施して軽く。岩壁を少しだけ削り取るようなイメージでつま先を立てた。

 硬いブーツとのぶつかり合いでギャリッと鈍い音を立てて、ほんの少し抉れたところからパラパラと砂が落ちる。


「ちょっと音が響くけど……まあ、別にいっか」


 この印の付け方は大きな音を立ててしまい、自分の存在をばらしてしまうリスクもある。

 しかし、敵が向かってくるのならそれはそれで構わない。むしろ、自分から行く手間が省けるとまで思っているルーミアは隠密行動などする気もなかった。


「さ、どんどんいこー」


 これなら迷子になることはない。

 それだけで謎の安心感を覚えたルーミアは、足取りを軽くして進んでいった。

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