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特別昇格試験

「詳しく聞かせてもらってもいいですか……?」


「もちろんだとも。試験の内容はここ最近活動が活発になってきている盗賊団の捕獲だ。つい先日僕の千里眼で奴らのアジトを特定したから、一定ランク以上の冒険者達にチームアップを要請して特別依頼としてお願いしようと思っていたけど……君さえよければ君に任せてみようかと思う」


「私にそんな重要な依頼……っ?」


「自信がないのかい?」


「……まあ、端的に言ってしまえばそうなりますね。だって、本来なら複数人の冒険者でやるはずだった掃討作戦を私だけでやるってことですよね……。本当にできるでしょうか?」


 盗賊団というからには相手取る人数は一人二人ではなくもっと多いだろう。本来だったら多くの冒険者で当たらないといけない依頼であるのに、ルーミアに単独で当たらせる。それがハンスの語った特別昇格試験の内容だった。


「これまでの君の戦いぶりを見て、実際に話を聞いて、できると思ったから頼んでいるんだ」


「でも、それに昇格もかかってるなんて……」


「……君はいまソロのCランク冒険者だ。パーティを組まない君なら昇格の重要性は……うん、その顔は分かってそうだね」


「同じランクでもソロとパーティでは全然違う……ですよね? 特に受けられる依頼の幅という意味で」


 基本的に冒険者は自分の冒険者ランクと同じかそれ以下のランクの依頼しか受けることができない。CランクならばCランク以下に難易度設定された依頼といったように、ギルドが定めたランクによって受けられる依頼は変動するのだ。


 しかし、ソロに限ってはそう単純な話ではない。

 ソロランクとパーティランクでは扱いが多少異なり、ソロだと制限を受ける場合がある。


 例えばCランクパーティならば受注可能な依頼でも、ソロのCランク冒険者では受けられないというケースがある。その理由はやはり人数差だ。

 必ずしも人数が多ければ強いという訳ではないが、数の暴力という言葉が存在するくらいだから、基本的に数が多い方が強力というのには一理あるだろう。


 それに伴って、複数人で対処する前提で危険度を定められた依頼もあり、冒険者ランク通りに依頼を受けられないこともあるということだ。

 加えてソロ冒険者はパーティに比べて昇格の条件が厳しいということもある。


 そのことを踏まえると、今ここでルーミアに特別昇格試験の話が舞い込んできたのはかなり幸運なのだ。


「どうしてこの話を私に……? 特別昇格試験と言ってるってことは、私の本来の昇格条件はまだ満たしていないってことですよね?」


「そうだね。君が昇格試験を受けるには本当だったらもう少し依頼をこなしてもらわないといけない。でも、ギルド長権限を使ってまで昇格させたいと思うほど君は優秀なんだ」


「え……? 私が優秀だなんてそんなこと……」


「僕もギルド長になってから結構長くてね……これでも人を見る目には自信があるんだ。大丈夫、今は自信が持てなくてもいい。結果は必ず付いてくる。君は上を目指せる人材だよ」


 ルーミアは確かにパーティの中での白魔導師としては優秀ではなかった。後衛から支援できない白魔導師は要らないと言われても仕方ないだろう。だが、そこでつけられた評価は、ソロの白魔導師ルーミアには関係ない。


 ハンスはギルド長として多くの冒険者を見てきた。

 そんな彼の説得力のある言葉は、ルーミアの迷いを取り除く。


「分かりました。そこまで言ってもらえるなら……私頑張ります!」


「そうか、よかったよ」


 ルーミアは立ち上がり、特別昇格試験の依頼を受けることを宣言する。

 それを聞いたハンスは嬉しそうに目を細め、デスクへと向かい引き出しを開けた。


「じゃあ、これにサインしてもらえるかな。詳細もその下の紙にまとめてあるから目を通しておいてね」


「えっ、これ……私が受ける前提で用意してたんですか?」


「そうだよ?」


 ハンスが取り出したのはルーミアがサインをするだけで完成する依頼書だった。

 その準備の良さはまるでルーミアが首を縦に振ることが分かっていたかのようで、とんとん拍子で話が進んでいく事にルーミアは呆気に取られる。


「私がそれはできないって断ったらどうするつもりだったんですか?」


「んー、それは考えてなかったね。ま、その時はいいよって言ってくれるまで根気強く説得したかな? 無理やりはよくないからね」


「うわ……やられたなぁ。まぁ、どうせ受けるんでいいですけど……」


 結局のところルーミアが同意する前提で行われたこのティータイム。すべてハンスの掌の上だったのだろう。

 だが、自信がなく迷うルーミアにかけていた言葉に嘘はなかった。そのことだけは確かに感じていたルーミアは、言いように転がされたものの、それほど悪い気はしていなかった。

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