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偉い人と対面

「そっか、今日はリリスさんお休みなんですか……盲点でした」


 今日も今日とて生活費を稼ぐために冒険者ギルドへやってきたルーミア。

 いつものようにリリスに話しかけようとして彼女の姿を探すも見当たらない。

 どうしたものかと思い尋ねてみると答えは単純。リリスは本日お休みで出勤していないというものだった。


 リリスとて人間。働けば疲労は溜まるし、当然休息も必要だ。

 年がら年中いつでも受付に立ってる訳じゃないのは当たり前のことだろう。


「依頼掲示板見るのも久しぶりかも……」


 リリスとの関係が強くなってからはいつも彼女に依頼を選んでもらっていた。パーティに所属していたころはルーミアが依頼について口出しすることはなかったし、それこそユーティリスに来て薬草採取の依頼を受けた時に掲示板の前に立ったのが最後だった。


 依頼の斡旋もギルド職員の仕事の一つではあるが、このようにして冒険者自身が受ける依頼を考えて決める場合もある。しかし、自身で依頼を決める経験が乏しいルーミアは掲示板の前で様々な依頼書を手に取ってにらめっこしている。


「スライム討伐……付与エンチャントで属性付与すればいけるよね……。あ、こっちのポイズンリザードもいいかもなぁ」


 こうして自分で見ていると目移りする。

 スライムは初心者向けの弱い魔物ではあるが物理攻撃に強く、魔法攻撃がないと苦戦することになる。ルーミアの戦闘スタイル的には相性がよくないようにも思えるが、白魔導師の魔法で拳や足に何かしらの属性を纏わせれば容易に倒せるだろう。


 ポイズンリザードはその名の通り毒を持つトカゲの魔物だが、白魔導師は解毒の魔法もある。毒というだけで避けられがちな討伐依頼だが、臆することなく戦えるルーミアにとってはただのリザードと何ら変わりない。


「他には……」


「もしよかったらやってもらいたい依頼があるのだがどうだろうか?」


 優柔不断にも受ける依頼を決められないルーミアは他にもお気に召す依頼がないかと再度掲示板に目を向けた。その時、背後から声をかけられた。

 振り向くと初老と思われる風体でぴっちりとした正装を纏った男性が立っていた。


「えっと……どちら様ですか?」


「おっと、そうだったね。ここ最近は結構視ていたから他人のような気がしなかったけど、そういえば僕達は初対面だったね。失礼したよ」


 ルーミアは怪訝そうに首を傾げた。この老紳士は何者か。今の言葉にはどういう意味があるのか、など気になることはいくつかある。とにかく意味が分からなかったルーミアは少しだけ警戒を強めた。


「おっと、すまないね。僕はハンス。この冒険者ギルドユーティリス支部のギルド長だよ」


「えっ、ギルド長……?」


「驚かせてしまったかな? まあ、僕もあまりこっちには出てこないからね。でも、今日は君と話をしたかったんだ」


「ギルド長が私と……? 私何かしちゃ……ってますよね、すみません」


 ギルド長ともあろう偉い人間が直々に声をかけてきた。何か悪いことをしてしまっただろうかと記憶を遡らせたルーミアはすぐに思い至ることがあって顔を青褪めさせた。

 つい先日、大暴れしてしまった件はまだ記憶に新しい。リリスからはお咎めはないと聞いていたが、やはり処罰の内容が変わったのだろうか。そう考えたルーミアは今にも泣きだしそうな表情でギルド長――――ハンスを見上げた。


 そんな顔を向けられたハンスはルーミアが何を思い浮かべているのか察して温厚に笑う。


「はは、心配しすぎだ。君の思っているようなことはないよ。本当に話がしたかっただけなんだ。今、時間はあるかい?」


「はっ、はい! 時間は大丈夫です……」


「立ち話をするのは老体に堪えるからね……。座って話したいから僕の部屋に来てもらってもいいかな?」


 そう言ってハンスは依頼掲示板に背中を向けてゆっくりと歩き始めた。ルーミアは手に持っていた依頼書を慌てて掲示板に戻して、ハンスを追ってギルドの奥へと姿を消した。

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