運動能力向上計画
ルーミアの朝は早い。いや、早くなったというべきだろうか。
物理型白魔導師という異色の戦闘スタイルを得てから彼女も変わった。厳密には変わろうとしている。
「ふわぁ、ねむっ。でも、二度寝は……いけま……せ、ん……はっ、危ない危ない。顔洗お……」
目覚めたルーミアは二度寝の誘惑に打ち勝って眠い目をこすりながら顔を洗う。
早朝、冒険者ギルドもまだ閉まっており、活動するにはまだ早い時間。
そんな時間に起きる習慣をつけたルーミアは身体を動かしやすい服装に着替えて、外に出た。
「さーて、今日も頑張りましょう」
身体を軽くほぐして温まってきたところで、ルーミアはランニングを始めた。
これがルーミアの新しい習慣である。
ルーミアは元々、身体を動かすのはそれ程得意ではなかった。
白魔導師という職業上、派手に動くこともなく、肉体的な能力は必要としてこなかった。
だが、それは過去の話。
今のルーミアを支える主軸の魔法、身体強化。これはその名の通り身体能力を底上げする魔法だ。その魔法をルーミアの有り余る魔力で発動しているからこそ最大の恩恵を得られているのだが、ルーミアはその魔法を活かしきれてはいない。
それはルーミアの運動能力にはまだのびしろがあるからだ。
「身体強化は確かに強力だけど、それを施す私の身体が弱いままだったら意味はない。逆に言えば私が身体を自由自在に動かせるようになれば、この魔法は更に活きる」
身体強化は身体能力を引き上げる。だからこそ、引き上げる前の身体能力――――ルーミアの基礎能力が高くなればなるほど、強化後の能力値は上がり、身体強化は真価を発揮する。
そのためにルーミアは身体を動かす習慣を身に付け、身体能力の向上を図っているのだ。
始めたばかりの頃は息切れするのも早く、長い距離を走ることもできなかった。
けれど、継続して続けていくうちに体力もつき、走れる距離も徐々に長くなっていった。
「よし、今日もいい感じ!」
ルーミアは高原からユーティリスの町を見下ろして、うっすらとかいた汗を拭う。
身体を動かすことへの慣れ。この実感が湧くたびに成長を感じられ、ルーミアは微笑んだ。
それと同時にもう一つ感じることができるのは、常時発動している身体強化が馴染んでいく感覚。
「……もう少し馴染めば……六重、いけるかな?」
ルーミアが現段階で安定して使えるのは五重まで。それ以上引き上げると身体の制御が利かず、逆に枷になってしまう。
だが、また一つその枷が解き放たれようとする感覚を覚えた。
「なんか昂ってきちゃった。今日は討伐依頼を受けて気持ちよくなろっと」
沸き上がる力に気分が高揚したルーミアはうっとりと赤らめた表情で呟いた。
そんな昂りを鎮めるために、今日は派手に暴れよう。
そう考えて、冒険者ギルドが開くのが待ち遠しくなったルーミアだった。