閑話 ドッキリ生存報告②
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「いたい……いたいです……」
「いい薬になっただろ。回復で治すなよ」
涙目になって頭を押さえるルーミア。その頭にはたんこぶが三段アイスクリームのように積み重なっていて、痛々しく腫れあがっている。
アンジェリカの力強い拳骨が何度も落とされた結果だ。
ルーミアとしてはなぜ叩かれているのか釈然としない気持ちもあるが、鬼気迫る表情のアンジェリカのその制裁を甘んじて受け入れるほかなかった。
「……ところで、いったい何をしに?」
「たった今用件はなくなった」
「私を叩きにはるばる王都からやってきたんですか?」
「……リリスの様子見と、お前の墓に手を合わせに来たんだが……お前が生きてるからその用もなくなったということだ」
アンジェリカはユーティリスを訪れた目的を簡潔に説明した。
そこでようやく、怒られている理由に理解が追い付いた。
「私と……リリスさんのこと、心配してくれてありがとうございます」
「……ああ。私もお前が生きてて嬉しい」
アンジェリカにとっては驚きも大きかったが、それ以上に嬉しいサプライズだった。まさか、墓の下で眠っていると思っていた少女が、普通に生活を謳歌しているとは思いもしなかっただろう。
だからこそ魔力反応も半信半疑で、いざルーミアをその目で見た時も偽物の可能性を疑っていた。
だが、こうして拳骨を落としてみて、彼女が本物であると確信できた。アンジェリカも少し笑っていた。しかし、しばらくして罪悪感が込み上げてきたのか、申し訳なさそうに謝罪を告げる。
「悪かったな」
「な、なんでアンジェさんが謝るんですか?」
「お前を一人でリリス奪還に向かわせてしまった。たらればの話だが、私も着いていっていれば結果は変わっていたかもしれない。だから……悪かった」
こうしてルーミアが生きていて、リリスも笑顔を取り戻した。だが、アンジェリカにとってそれは結果論だ。
ルーミアが帰らぬ人となり、孤独に耐えかねたリリスも同じようになってしまった可能性だってあった。
そういった意味でもルーミアの死は影響を与えていたかもしれない。
だからこそ、アンジェリカはルーミアの生存を心から喜んでいる。
「だが……それとこれとは話が別だろ。生きてたなら帰る前に一言くらいあってもいいだろう?」
「……だって、私達が泊まってた宿の部屋が引き払われてたので……。お二人が私を捜索するついでに荷物などを回収してくれてたので、私無一文だったんですよ?」
「……む」
「宿にもいられない。ご飯を食べるお金もない。そんな状況だったので急いで帰らなきゃーって焦ってました」
ルーミアは瓦礫を脱出して洗濯物ムーブをしている際に起こっていたことは知りえない。
極論、リリスとアンジェリカが行動を共にしていたこともルーミアには知りえないことだ。
そんな中帰還して、リリスがいない。
装備もなければお金もない。王都にいられるすべがない。
そんな状況で落ち着いてアンジェリカを探せるかと問われれば、ルーミアは即座に首を横に振り回すだろう。
話を聞いてみて、様々なすれ違いがあったのだとアンジェリカは認識した。
「まあ……とりあえず元気そうな姿を見れてよかった。もうリリスのことを泣かせるんじゃないぞ?」
「……善処はしますよ」
「はぁ……リリス。なんかあったら私に連絡しろ。また拳骨を落としてやる」
「え、じゃあもう二、三十発しばいておきます?」
「……お言葉に甘えてそうしておくか」
「リリスさん!? アンジェさん!?」
アンジェリカはリリスの情緒不安定な姿をたくさん見てきた。そんな痛ましい姿を知っているからこそこのような言葉をかけるが、ルーミアは煮え切らない返事をボソボソと垂れ流している。
そんな情けない姿にいつでも喝を入れてやるとリリスに告げると、リリスはいたずらに笑った。
自信を持って返事をできなかった罰だろう。リリスとアンジェリカはソファで頭をさすっているルーミアににじり寄る。
「さて、たんこぶは何段がお望みかな?」
「あのー、これ以上増やさないでほしいのですが」
「リリス、どうする?」
「……そうですね。あんまりたくさん叩くとルーミアさんの頭が空っぽになっちゃうかもしれないので、今日のところは保留にしておきましょうか」
「ほっ」
「……なーんて、隙ありっ」
「んぎゃぁ!!」
ちょっとした罵倒と共にアンジェリカを制したリリスに助かったと安堵したルーミアだったが、油断した瞬間にリリスのチョップが脳天に突き刺さる。
ちょうど膨れ上がったたんこぶの頂点を捉えた一撃に、ルーミアは悶絶して転げ回るのだった。
劣等聖女シリーズの方も更新しておりますので、百合ファンタジーがお好きな方はぜひそちらもご一読お願いします
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