閑話 残された者達
ルーミア達が王都を去った数日後。
冒険者ギルドの共有スペースにて二人の男女が向かい合って頭を悩ませていた。
「……飛んだな」
「……飛びましたね」
重たい雰囲気を纏って沈黙を貫いていたが、二人は口を揃えて呟いた。
彼らはアレンのパーティメンバーであるザックとヒナだ。彼らの頭を悩ます出来事――それがリーダーであるアレンの失踪だった。
「ここ最近一人で動いていると思っていたが……まさか姿を消すとは……」
「ザックさんはアレンさんが何をしていたか知らないんですか?」
「ああ、何も知らん。お前も何も聞いてないんだろ?」
「そうですね」
アレンはルーミアを手に入れる計画を立て、実行に移すために、仲間にも伝えずに一人で行動していた。そのため、いつも通りの日常を謳歌していた彼らは、裏でどんなことが起こっていたのか知らない。
こうして、アレンが姿を見せなくなったところで、ようやく異変に気付いた彼らだったが、その反応が意外にも淡泊なのは、アレンにリーダーとしてのカリスマ性がなく、二人の心も離れかけていたからだろう。
本来ならば、リーダーがいなくなったとなれば心配したり、捜索したりと何かしらのアクションが発生するはずなのだが、ザックとヒナはアレンが飛んだという感想が第一。その次にどうするかはアレンについてではなく、自分たちのことである。
「アレンさんが何をしていたのかは分かりませんが、パーティの共有財産が使い込まれていた形跡がありました。それだけでなく貴重品などもいくつか無くなっていて、さらには借金までしていたみたいです」
「……こそこそ何をやっていたんだ?」
アレンは計画を実行するにあたって資金を必要としていた。その使い道はルーミア対策の魔道具など。ルーミアを支配するために一番の要となる隷属の首輪などは特に高額で、アレン個人の試算では到底手が出るような代物ではなかった。
だが、ルーミアさえ手に入れられればすべてを取り返すことができるという捕らぬ狸の皮算用な考えで、アレンはパーティ共有財産を使い込み、挙句の果てには借金にも手を出していた。
そんなアレンはルーミアに敗れて空の向こう側に飛んでいってしまった。
生死も分からぬまま消えていったパーティリーダー。事実上、パーティの瓦解に二人は今後について相談していた。
「とりあえず……いったんパーティは解散しておくか?」
「そうですね。借金の催促がこっちに飛び火するのは勘弁なので……逃げましょうか」
メンバーが欠けたところでパーティとして成り立たなくなるわけではないが、戦力的な弱体化は免れない。それに加えて、アレンがどのような担保で借金をしたのか不明なのも、パーティ継続にあたり不安要素だ。
切り捨てるという表現は言い方が悪くなるが、事実上アレンを見捨てるという選択肢を選んだ二人は、顔を見合わせて力強く頷いた。
元々、パーティは上手く回っていなかった。ルーミアがいなくなったあの日から、すべてが狂っていったのだと、この二人は理解している。
「どこ行ったんだろうな?」
「……もしかしたら、またルーミアさんに喧嘩を売りにいって、今度こそ病院送りにされたんじゃないですか?」
「はは、有り得るな」
「アレンさんだけ顔すごいことになってましたもんね。それでイライラしてたみたいですし、報復に行ってまた返り討ちにされたとか」
「……どうだろうな? 死んでなきゃいいがな」
当たらずも遠からず。
しかし、アレンがどうなったのかはルーミアも知らない。
もしかすればどこかでしぶとく生きているかもしれないし、ルーミアの最後の一撃がトドメとなっていたのかもしれない。
そんな彼の最期にそれほど興味はないのか、残された二人は進もうとしている。
仲間だったはずの者にさほど心配もしてもらえない愚かな彼の行方は――神のみぞ知る。