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破壊は快感

「リリスさーん、なんかいい感じの依頼ないですかー?」


「ちょっと待ってくださいね。ルーミアさんは職業とやってることが違いすぎていい感じがどのラインなのかガバガバなんですよ。まったく、いい感じの依頼を探すこちらの身にもなってみてください」


 ルーミアは今日も今日とて冒険者ギルドにやってきていた。

 言いつけ通りリリスの受付の列に並び、彼女に何か手頃な依頼がないかと尋ねた。


 リリスはあれこれ言いながらもルーミアに合った依頼を探す。

 本来なら職業と能力を元に算出されるおすすめだが、ルーミアの場合は前提が間違っている。


 ソロの白魔導師という一種のバグみたいな存在。仲間と組むことで真価を発揮するはずの後衛職が一番前に出る事態になっている彼女の現状。前提条件がおかしいのは言うまでもない。

 本来戦闘能力は皆無に等しい白魔導師が一人で受けられる依頼を探すというのは中々に難しいことなのだ。


「なんかいい感じだとちょっと難しいので、何か方向性ないですか?」


「方向性ですか?」


「例えばこういう魔物を倒す系とか、何かを集める系とか、そう言ったざっくりしたのでいいんで……」


「えー、じゃあ……何かを壊す系?」


「……あんた本当に白魔導師か?」


 ルーミアに薦める依頼を絞り込むために、ルーミア本人の希望を参考にしようと思ったリリスだったが、やはり白魔導師らしからぬ言動に呆れたようにジト目で見つめた。

 それでも要求に沿ったものを素早く探し出すために手を動かせるのはプロの仕事だ。


「じゃあ、これなんてどうでしょう? 使われなくなった廃倉庫の取り壊しです。ルーミアさんの希望にぴったりですけど」


「ちなみにその倉庫は頑丈ですか……?」


「さあ? 使われなくなった倉庫ですし経年劣化などでいくらかは脆くなってるんじゃないですかね?」


「そっかー。うん……そうですか……」


「そんな心底残念そうにしなくても」


 普通ならばその依頼の報酬や期限、失敗した際のペナルティなどを気にするところだが、ルーミアの目の付け所は違った。

 彼女が一番初めに気にしたのはその倉庫の耐久性。

 しかし、使用されなくなった倉庫で取り壊しの依頼まで来てるとなると、それほど耐久性は期待できないだろう。廃倉庫に耐久性を期待するのがそもそもおかしな話ではあるが、いちいち突っ込んでいたらキリがないと華麗にスルーしたリリスは英断だっただろう。


「まあ、簡単そうなので受けますよ」


「これを簡単と言える白魔導師は中々お目にかかれませんね」


「えへへー、ありがとうございます」


「別に褒めてないですから」


 リリスは軽口を叩きながらも手際よく受注の手続きを行う。


「では、お願いしますね」


「はーい。ささっと終わらせてきますねー」


 それが完了すると、ルーミアは爆速でギルドを飛び出して、現場へと向かっていった。





 ◇




「これかー」


 身体強化が施された身体で走ること数分。

 現場に到着したルーミアは、破壊対象を観察していた。


「思ったより手応えありそうかも……!」


 リリスに聞いたところあまり期待はできないと思い、サクッと終わらせて帰ろうと考えていたルーミアだったが、やる気が出てきたのか目に光を取り戻した。


「じゃあ、さっそくやっちゃおうか。身体強化ブースト二重ダブル!」


 身体強化の段階を一つ引き上げたルーミアは乱雑に倉庫の扉を蹴りつけた。金属の軋む音と共に扉の片側が吹っ飛んで倉庫奥の暗闇へと姿を消した。そのままもう片方の扉も引き剥がすように引っ張ると、ガコッと嫌な音を立てて外れた。

 それをぽいっと投げ捨てたルーミアは倉庫内へと足を踏み入れる。


「うわ、暗いしジメジメしてる。なんか嫌だなぁ」


 感じた不快感をぶつけるように倉庫の壁を殴りつけると、凹みが出来上がる。同じ場所を何度も叩き付けると腕が貫通した。


身体強化ブースト三重トリプル


 さらに強化段階を引き上げたルーミアは回し蹴りを撃ち込み、穴をガンガン広げていく。


「思ったより脆いし、もういっか。身体強化ブースト四重クアドラ


 ルーミアは倉庫内のまだ無事な壁に目を向ける。

 それ目掛けてものすごい速さで突っ込み、容赦なく膝を突き立てた。


 それを何度か繰り返すとやがて穴だらけになった。

 初めに比べると明るさも確保できていて、風通しもいい。


「これで終わりっ。身体強化ブースト五重クインティ


 ルーミアは大きく飛び上がる。

 空中で身体をかがめてくるくると回転して勢いをつける。


重量軽減デクリーズ・ウェイト解除」


 現時点での最大強化と遠心力と落下の勢い、そして本来の重量を取り戻したブーツ。

 それらをすべて乗せた渾身の踵落としが、満身創痍の倉庫に炸裂した。


「ふー、スッキリしたー」


 ガラガラと音を立てて崩壊する鉄くずの中から出てきたルーミアは、実に満足そうだった。

 その後も倉庫が原型を留めなくなるまで遊んだルーミア。

 彼女は冒険者ギルドに戻るなりリリスにこのように語った。


「壊すって…………とっても気持ちいいですね」


「うわぁ…………ヤバいやつだ」


 白い髪の隙間から覗く瞳は曇りなく煌めいている。

 そしてどことなく恍惚の表情で少女は息を荒げさせていた。

 リリスがドン引いたのは言うまでもない。


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