湧かせて、分からせて
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「あ、リリスさん」
「お疲れ様です……って大して疲れてないですか」
「おかげさまで消耗はかなり抑えられましたね。先手必勝、早期決着です」
自分のグループの予選を終え、足早にリリスの元へ戻ってきたルーミアは無言で頭を差し出した。もはや、何を言うでもなく、ただただ催促をしている。
そんなルーミアに労りの言葉をかけながら頭を撫でるリリスだったが、これほどまでに爆速で予選を勝ち抜いてきたルーミアにお疲れ様というのは変な気がして苦笑いを浮かべる。
実況と解説が今の試合の見どころなどを頑張って捻り出しているが、ルーミアは興味無しといった様子でリリスに頭を擦りつけている。
これほどまでに解説殺しな一戦も中々ないだろう。本来ならば各選手の事も掘り下げながら場を繋ぐのだが、あまりにも語ることが無さすぎて、もはや次に進むしかない。
「あ、そうだ。これを勝ち抜いた人には控え室が割り振られるみたいですよ。そっちの方でも観戦はできるみたいなので良かったら一緒に行きませんか?」
「そうですね。注目を浴びるのも嫌なので行きましょうか」
予選を勝ち抜いたと言うだけでも注目は集まるが、その勝ち抜き方が前代未聞なルーミアに寄せられる注目は通常よりも多い。舞台上で圧倒的な力を見せつけたと言うだけでも目立つのに、そんなルーミアが舞台上の姿を想起させないほどにリリスに甘えきっている。
ルーミアに巻き込まれる形で視線を浴びるリリスは居心地悪そうにしているが、予選を突破したルーミアに控え室が与えられるというのならば是が非でも避難したい。
「さ、行きますよ」
「あっ、手を繋いでください」
「はいはい。場所はどこですか?」
「うーん、多分あっちです」
「多分て。まあ……いいですか」
リリスはルーミアの手を引き、控え室に向かって歩く。そんな仲睦まじい姿を見て、観客の誰かがふと呟いた。リリスと言う少女が何者なのかは分からないが、あのルーミアが完全に付き従う様子から只者では無い。そう畏怖を込めて『狂犬の飼い主』とぼやいたが、熱気溢れる会場の観客達の声に混ざり、誰に聞かれるでもなく紛れて消えていった。
◆
控え室に入った事で好奇の視線に晒されることが無くなったのはリリスにとって嬉しい事だが、人目が無くなったという事でルーミアのスキンシップが一層激しくなったという悩みもある。
「ほら、次の予選やってますよ。見なくていいんですか?」
「んっ」
「そうですか。見る必要はないと」
ルーミアはリリスの膝に座り、だらりと力を抜いて彼女に身体を預けている。それを後ろから抱き締めるような形で腕を回して、頭や顎を撫でるリリスは、試合を観戦しながらルーミアの相手も忘れないように意識して手を動かしていた。
「さっきは一瞬で終わってしまいましたが、本来ならこういう戦いが見れるんですね」
「混戦になるのは分かってましたからすぐ終わらせたんです。徒党を組まれると厄介ですからね」
ルーミアの視線の先では明らかに協力して戦う集団があった。予選通過の仕組みからして当然と言えば当然。それを見越して初手ですべてを終わらせるように動いたルーミアは、冷静に戦場を見れていただろう。
だが、それはそれとしてこの大会の見所を丸々一つ潰してしまったのも事実。それがルーミアの戦法であり、やってしまったことに関してどうこう言うつもりもないが、魔法が飛び交う光景がこの大会の醍醐味であるとリリスはしみじみと噛み締めていた。
「むっ、手が止まってますよ」
「いや……ちょっとはゆっくり見させて下さいよ」
「見るなら私の試合でいいじゃないですか!」
頭をグリグリとリリスの胸に押し付けながらルーミアは不満そうに声を上げる。観戦に夢中になり手が止まってしまったリリスを咎めて頬を膨らませるルーミアはぺちぺちとリリスの足を叩く。
「ルーミアさんの試合、見るとこないんですよ。私は目がいいのでかろうじて追えてますが、ほとんどの観客は何が起きたのか分かってないと思いますよ……」
「それは……っ、見えてない方が悪いです。そうに違いありません」
「清々しい責任転嫁だ……」
観戦時間、試合内容共にルーミアが出た試合は観戦には向かない。それを告げるリリスだったが、納得のいかないルーミアは暴論を振りかざす。
「この感じだと次はトーナメント形式になりそうなので……もしかしたらルーミアさんのまともな活躍は見られないかもしれないですねぇ……」
「うぅ……風じゃなくて他の属性メインにした方がいいのでしょうか……? でも、それだと消耗が……」
「ま、勝てばいいんですよ。私はちゃんと見てるので安心してください」
「……あぅ、ありがとうございます」
ルーミアが速さを求めれば求めるほど、過程は示さずに結果だけを叩き出してしまうかもしれない。でも、一番見てほしい人が見てくれているのならそれで構わない。ルーミアは初志貫徹、圧倒的な力で観客を湧かせ、対戦相手を分からせる事を再度決意した。
「なので……ね? ゆっくり観戦させてください」
「……ちょっとだけですよ」
そう言ってリリスは再度舞台へと目を落とす。
ルーミアはやや不満げにリリスの止まってしまった手に自分の手を重ねて、渋々色とりどりの魔法が飛び交う戦場を眺めるのだった。
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